「(仮称)荒川区良好な生活環境の確保に関する条例」

区長からの返信と意見書

2008年10月5日

9月20日付け 区長宛のメール
10月2日付け 区長からの返信
10月5日付け 区長宛のファックス

東京都荒川区で、カラス・ハトに加え、野良猫への勝手な餌やりにも罰金を課すという内容を含んだ条例が提出されようとしていることは、すでにご案内の通りです。私は、9月20日付けで、区長宛に確認と質問状を送付し、皆様にもパブリックコメントや区長へのメールをお送りくださるよう、呼びかけておりましたが、一昨日、区長からの返信が届きました。この返信は、猫三昧仲間の方に送られてきたものと一字一句違わず、メール送信者全員に同一内容で送信されているものだと推察されますが、以下に転載させていただきます。また、区長からの返信を受けて、私の私見を10月5日付けで区長あてにファックスいたしました。併せて転載いたします。

このような罰則規定が条例として制定されようとしていることに、私は、悲しみを越え、怯えています。皆様はどのようなお考えでしょうか。以下のメールとファックスの内容をご一読いただき、皆様のご意見も是非荒川区に届けていただきたく、お願い申し上げます。パブリックコメントの募集要項は
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/a001/b009/d02400072.html
をご参照ください。

【10月2日付け 区長からのメール】

平成20年10月 2日

横倉 初江 様

荒川区長  西川 太一郎

 「区長へのメール」に御意見をお寄せくださいまして、ありがとうございます。
 (仮称)荒川区良好な生活環境の確保に関する条例についてお答えいたします。
 この条例を提案した背景には、数年前から特定の区民によるカラスやハトへのえさやりの苦情が周辺住民からあり、区職員がえさやりの中止を要請しても、法的根拠がないことで抜本的な対応ができない状況が続いておりました。
 今年に入り、カラスやハトに対するえさやりがさらにひどくなり、早朝3時過ぎから100羽を超えるカラスが飛来し、鳴き声や糞、威嚇行為等による被害が甚大なものになりました。区に対して関係町会からの要望書も提出されるなど、「周辺住民の我慢の限度を超えているので、なんとかしてほしい」と、これまで以上に強い要請があり、これをきっかけに、本条例を提案しました。
 また、本条例には、これまで有効な決め手となる対応ができなかった、所謂「ごみ屋敷」と呼ばれる迷惑行為(いくつかは解決しましたが、現在数軒あります。)に対しても、立ち入り調査や行政代執行等ができるよう規定を盛り込みました。
 本条例の提案にあたり、新聞などであたかも「すべてのえさやり行為を禁止する」かのような報道がされ、動物愛護に関するボランティア活動、とりわけ猫に対する活動をされている方々に大きな不安と御心配を与えてしまいました。このことにつきましては、新聞社に申し入れをするとともに、正確な報道を行ってもらうため、追跡取材についても要望したところでございます。
 本条例は、えさやり行為のすべてを禁止するものではありません。動物へのえさやり行為は人間の動物を愛する心から自然に生まれるもので、大切にしていかなければならないものであり、その命も同様であると認識しております。

 本条例により禁止される行為は、
1) 周辺住民の生活環境に係る被害が生じていると認められること。
2) 複数の周辺住民からの苦情の申出等により、?の被害が周辺住民の間で共通の認識となっていること。

 この2つの状態の原因となるえさやり行為です。
 従って、ボランティアによる「地域猫」の活動に伴う管理されたえさやりや、周辺住民へ被害を及ぼさないえさやりは、この条例の禁止行為には該当しません。

また、条例を適用する場合の流れは、
1) 被害が発生している周辺住民からの申し出
2) 区職員による実態調査
3) 実態調査の結果、必要な限度で対象者に勧告
4) 勧告に従わない場合、弁護士などで構成する(仮称)荒川区生活環境審議会に意見を聴いた上で、期限を定めて命令
5) 命令に違反した場合、対象者を警察に告発
となりますが、この流れにつきましても随時(仮称)荒川区生活環境審議会に図り、適否の判断を仰いでまいります。

 当区は、区民の生活環境を守る観点から本条例を提案いたしました。
 なお、本区におきましては、飼い主のいない猫への去勢・避妊手術に対する助成を行っているほか、地域猫活動での飼い主さがし等もお願いしております。現在、地域猫の活動には16団体の登録をいただいており、7月8月の二月で7匹の去勢・避妊手術を行いました。
 区では、良好な生活を脅かされ、お困りの区民の皆様の声を、これまで以上に充分に聞き、条例等によらない方法で解決できるよう対応するほか、本条例の適用にあたっては、先述の(仮称)荒川区生活環境審議会や医師、警察等とも十分な連携を図り、慎重に実施してまいりたいと考えておりますので、御理解くださいますようお願いいたします。

<この件に関する問い合わせ先>
 環境清掃部環境課環境保全係

電話 3802−3111(内線483)
連絡・問い合わせ先
秘書課総合相談係
(電話)3802−3111 内線2161
(FAX)3802−6262

上記区長からのメールに対し、10月5日、私の私見をファックスにて送信しました。以下がその内容です。

【10月5日付け 区長宛の意見書】

荒川区長 西川 太一郎殿

9月20日付けで貴殿宛に送付させていただきましたメールにご返信をいただき、ありがとうございました。
私のメールには確認事項3点と質問5点を明記いたしましたが、これに対しては明快なご回答はいただけず、甚だ残念に思っております。確認と質問を再度お送りしたいところですが、同様のお返事しか期待できないとするならば時間の無駄になりますので、ご返信をベースに私見を述べさせていただきたいと思います。

今回の「(仮称)荒川区良好な生活環境の確保に関する条例」、就中、一定の条件に当てはまる猫へのえさやり行為の禁止、罰則規定について最も憂うことは、『餌やり=悪いこと』という単純な図式が一人歩きすることです。区長のご返信の中でも、

……新聞などであたかも「すべてのえさやり行為を禁止する」かのような報道がされ、……
と書いておられます。新聞でさえそのような捉え方をするのですから、動物に対して様々な考え方、感じ方をしている不特定多数の人々の口に上れば、どのような事態を引き起こすか、火を見るより明らかです。特定少数の新聞社には訂正を求めることができても、風評となって広がり信じ込まれた誤解を正すのは容易ではありません。ひとたび、誤解が流布すれば、
……動物へのえさやり行為は人間の動物を愛する心から自然に生まれるもので、大切にしていかなければならないものであり、その命も同様であると認識しております。
という区長ならびに行政側の基本姿勢(いまやグローバル・スタンダードですが)は区民の土壌として定着するどころか、誤解に汚染されてしまいます。
残飯を撒くといった常識では考えられないような餌やりに困り果てるケースも稀にあるでしょうが、そんな数少ない事例の為に、「誤解の一人歩き」という予見できる大きなリスクを賭けるのは愚かしいことだと考えます。

改善すべきそうした事例については、行政とボランティアとの恊働によって、個々に対応していくべきではないでしょうか。苦情を述べ立てたり、批難したりするのではなく、一緒に餌を与え、周囲を清掃し、避妊・去勢をする、という有るべき姿を身をもって示していくことです。
区長がお示しになった条例の適用の流れの中には、こうした地道な活動への言及はなく、事務的な手順に終止しているように見受けられます。いみじくも
……条例等によらない方法で解決できるよう対応する……
と区長も述べておられますが、風紀の乱れた学校ほど校則が多いのと同様、こうした条例が多いことは恥ずべきことです。今回の条例には、ゴミの不法投棄やゴミ屋敷といった環境問題も対象となっていますが、野性動物ではない猫を同列に並べ、一括して処理しようというのはあまりに乱暴です。少なくとも猫については、条例によらない方法で対応可能です。猫に係わる文言を、条例から削除されることを強く要望いたします。

……7月8月の二月で7匹の去勢・避妊手術を行いました。
とのことですが、この数字を区長はどのように捉えておいででしょうか。7匹という数字は、一人の個人が一時期に自費で行なう数と大差ありません。荒川区の野良猫の数が極端に少ないのならば喜ばしいことですが、他区と違いないのであれば、助成制度の利用が極めて限られてしまっている、と考えるべきです。助成制度の対象となっているのは5名以上の団体で、現在16団体が登録されているそうですが、この条件がネックになっているのではないでしょうか。荒川区でも個人で野良猫の面倒を見ている方が大勢いらっしゃることと思います。そうした個人に対しても、門戸が開かれれば、野良猫の去勢・避妊は飛躍的に進みます。個人から申し出があった場合、行政或は登録ボランティア団体が現場視察し、妥当と認められたら助成金を給付、万一管理の仕方に改善点がある場合でも、その改善を条件に助成金を給付すべきでしょう。避妊・去勢は待ったなしですし、避妊・去勢をしようと思う方々ならば、改善の指摘に従えるはずです。必要ならば一定期間サポートしても良いでしょうし、定期的に視察しても良いのではないでしょうか。野良猫に起因する問題があるのなら、個人の善意や負担に甘えるのではなく、また、罰則規定など後ろ向きな条例を制定するのではなく、根本的な取り組みをすべきです。

長文になりましたが、「(仮称)荒川区良好な生活環境の確保に関する条例」から猫に関する一切を除外し、人間が動物を愛し、命を尊ぶ心を大切に育む区政を推進されるよう、切に願っております。



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