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とら吉の東京さんぽ 平成9年1月4日 第1刷発行 |
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浅草、花やしきのBeeタワーを背景にとら吉が描かれた表紙に、私は懐かしさと後悔がないまぜになった気持にかられる。私は向島育ちで、幼稚園は浅草寺幼稚園。花やしきは、身近な存在だった。だが、そこに住んでいた間中、私は地元が好きになれなかった。緑に囲まれた閑静な住宅街や摩天楼の聳えるニューヨークに憧れ、自分が身をおく土地柄のいっさいを心の中で遮断した。なんともったいないことを……と今は思う。再開発された丸の内や六本木に出掛けるたびに息苦しさを覚え、谷根千や浅草、上野界隈の空気が性に合っていることに気づかされる。一方で、ニューヨークとは妙に相性が良い。 私事ばかり書いてしまった。本題に戻ろう。本書では、とら吉が案内役となって、東京の10のエリアとそこに暮らす猫たちを、絵と小気味よい語りで紹介していく。猫のいるところは裏通り、と相場が決まっているが、裏通りにこそ、その土地が経て来た時間をたっぷり吸い込んだ佇まいがあるものだ。絵を眺めては、とら吉の話しを聞き、と読み進めるごとに、その場所へ行ってみたい、という思いが強くなる。本書は、超一流のエリアガイドの役割をも果たしている。 町は変貌していく。その中で、私たちは、何を大切に守っていかなければならないのか……本書は、理屈ではなく、心の琴線に触れることで、教えてくれているような気がする。そこには、例外無く猫が似合うのだろう。 |