地域猫活動めぐり 第1回
早稲田大学地域猫の会(愛称:ワセネコ)

2005年1月21日

一昨日、一本の電話が掛かった。里親募集中の猫はいませんか?という問い合わせだった。お話を伺うと、早稲田大学内で、里親を募集したところ、保護猫以上に里親希望の方が集まったのだそうだ。学生さんと云っても、実家から通っていて、里親さんの要件を満たしている方ばかりだとの事。どうして早稲田大学の中で里親を募集することになったのかを尋ねると、早稲田大学構内にも地域猫がいて、『早稲田大学地域猫の会』で世話をしているのだそうだ。電話の主もそのメンバーのSさん。里親募集ならぬ里子募集という有難い申し出でもあり、大学内の地域猫活動にも興味を引かれ、お会いすることになった。

『早稲田大学地域猫の会』が発足したのは、6、7年前のこと。一旦社会人となり、再度大学に戻った方が発起人だったそうだ。当時、大学構内には野良猫がたくさんいた。その猫たちに対する周囲の視線は冷たく、生まれたばかりの子猫がゴミ箱に捨てられていることもあったそうだ。そんな現実を目の当たりにした発起人が、5、6人のメンバーと共にこのサークルを立ち上げた。現在メンバーは40名に膨れ、彼らの庇護の元、26匹の猫が元気に暮らしている。朝夕の餌やりと清掃は、40名全員が持ち回りで行い、避妊手術等は、10名ほどの中核メンバーが担当している。エサ代はメンバーのお小遣い、避妊手術の費用は募金で賄っている。通りがかりに100円玉を投げ込んでくれる学生さんから、1万円札を入れてくださる先生まで、一回の募金活動で4、5万円は集められると云う。皆さんの善意で、現在1匹を除いて、全員が去勢・避妊を済ませ、猫の増加にも歯止めがかかった。ところが、ある日、見たこともない子猫が2匹現れた。構内の猫の子供であるはずがない。管理人さんに聞いてみると、大学の猫が近所から子猫をくわえて連れてきたらしいとの事。この2匹については、まだ小さいこともあり、駆虫し、健康診断を済ませて里親さんを探すことにした。祈るような思いで構内に里親募集のポスターを貼った。どんなに猫が好きでも、住まいの環境は大切だ。実家から通っていることが第一の条件となる。そして、家族全員があたたかく迎えてくれること。里親の条件は他にも多々ある。それらをすべて満たす人がどれほどいるだろうか。だが、この心配は杞憂に終わった。申し分ない候補者が予想以上に集まり、2匹は無事、家と家族を得ることができたばかりか、里親希望のウェイティングリストまで出来た。せっかくの有難い希望者、大学外に里子を探そうということになったのだ。

このように書くと、ワセネコは順風満帆のようだが、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかった。大学の中には、学生、先生、職員それぞれに、猫好き、猫嫌い、無関心がいる。通常の地域となんら変ることがない。猫に対して様々な感情を持つ人に対し、彼らは粘り強く活動の意味を訴え続けた。避妊・去勢をすることにより、猫の増加を食い止め、今そこにいる猫には責任を持って餌やりをし、天寿を全うさせる、糞害や餌のちらばりがないよう清掃を徹底する。地域猫の活動の基本を必死で伝え、実行していった。さらにワセネコは、文化祭などに討論会や写真展、研究発表を展開した。大学ならではの活動だ。大隈講堂にて、猫好き・猫嫌い大勢が集まり、熱い議論を戦わせたフォーラムは、お互いの気持ちを理解する格好の場となった。『どうぶつたちへのレクイエム』の写真展では、動物収容所で殺処分となる犬や猫たちの最期の眼差しが、見た者の心を抉った。そして、今年は「動物実験」をテーマに調査し、発表する。

ワセネコの発起人は、卒業後、現在も2箇所で地域猫活動をしているそうだ。現役メンバーSさんも、里子を学外に求めたのをきっかけに、今後、活動の場を広げていきたいと語る。そして、卒業し、仕事を持ってからも、地域猫活動はやめることがないだろうと、やめられないと。

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1月20日、浦和のムサシという地域猫が薬物により、虐殺されたというニュースが流れた。ムサシ以外にも肉球を削がれるなど、虐待が相次いでいる。これまで、地域猫たちの餌やりの場となっていた駐車場のオーナーにも、脅迫まがいの電話がかかるという。日頃からムサシをはじめとする地域猫の世話をしているボランティアの方の嘆きよう……どんなに無念だったろう。いや、今はまだ現実を受け止められず、ただただ「痛み」に苛まれているに違いない。
一方で、庭に放置された猫の糞が大写しにされ、レポーターがその臭いを報じた。そうした糞害の自衛手段として、市販の猫避け(猫の嫌う臭いを放つもの。口にしても無害)を使っている人のインタビューもあった。周囲に鉄条網を螺旋のように張り巡らせている庭も写し出された。保護する側と、糞害、それに対する自衛、と報道は公平を期したのだろうが、残念ながら地域猫活動の主旨に触れられることがなかった。
VTRを受けたニュース・キャスターは、「難しい問題ですね」の一言しか語らなかった。(えっ、それだけ???)キャスターに振られたコメンテーターは、猫の虐待と短絡殺人を結び付けつつ、言葉を持つ人間同士の話し合いを促したが、ここでも、地域猫活動の意味は語られなかった。ムサシの犠牲の上に流れた報道が、これでお終い?哀しかった。
話し合え…言われなくとも、と思った。だが、そういう自分も、火の粉がかかるまで、話し合うことを先延ばしにしているのではないか。

ワセネコのSさんにお会いしたのは、この報道の翌日だった。文化祭で展開した活動をそのまま学外で行えないものだろうか、駅の構内など、ランダムで多くの人の目に触れる場所で写真展を開ければ…、大学内の一団体であることは、組織を動かしやすいのではないか…。私は夢中で語り続けた。一言一言発しながら、本気でやろうと思えば、自分にもできるだろうに、なぜ腰を上げないのか、と自問しながら。

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