小西 修写真展『多摩川の猫』に思う

2007年7月9日

小西 修 写真展
多摩川の猫 --河川敷に生きる面貌-- に思う

開催2日目に、小西氏の写真展『多摩川の猫−河川敷に生きる面貌−』に出掛けた。
エレベータを下りると、すぐに多摩川の猫たちと視線が合った。彼らは、ラウンジの2面に飾られていた。

体格の良い、どっしりとした存在感のある茶トラ猫、川縁に下りてカエルを興味津々眺める黒白猫、木の根元でメタボリック症候群を心配するほどの大きなお腹を上に向けて心地よさそうな茶白猫、タヌキ君とツーショットの三毛猫、身繕いする白ウサギをそっと見守る三毛、後足で立つプレーリードッグと戯れるサバトラ……どの猫も予想外に肉付きがよく、健康そうで、その時々を楽しんでいるように見えた。覚悟していた悲惨なイメージはどこにもなかった。ほっとすると同時に、家のない彼らに、これほどの体と時間を与えてくださっている小西夫妻の休むことのない活動を思い、改めて頭の下がる思いだった。

生憎、小西氏は不在で、置かれている感想ノートにメッセージを残そうと覗くと、「猫たち、とっても可愛かった」といった感想が並んでいる。何も知らずに写真を眺めれば、こんなあっけらかんとした感想を抱くのも当然だ。それほど、猫たちは恵まれているように見えた。だが、「可愛い」という感想は、この写真展の目的とズレているように思え、小西氏とお目にかかれるまで、時間をつぶすことにした。

会場のオリオン書房は、1フロアの売り場面積では都内一、二を争うほどの広さで、本好きの私には、堪らない魅力のある場所だ。会場となっているラウンジの隣には、子供用の書籍がずらりと並んでいる。絵本をここまで揃えている書店は多くはないだろう。夢中で棚から棚へと見て回り、気付けば腕の中には10冊以上が積み上がっていた。日頃、外に出る時間がなくて、書籍はほとんどアマゾンで購入している私にとって、本屋さんで本を買うことは何とも贅沢なことだ。それにしても、世の中には、本当に気が遠くなる程の書籍があるものだ。その中の一冊との巡り会いは、ほとんど奇跡のように思われる。売り場の10分の一も歩かない内に、両腕の本の重みに耐えかね、レジに向う。

大きな袋をぶら下げて、もう一度ラウンジを覗くと、写真額を固定している小西氏の姿があった。ご挨拶もそこそこに、先ほどの印象をお話しすると、小西氏は痛みを穏やかな表情の下に隠すような様子でこう語った。
「このどの光景も、今はもう見る事ができないんですよ」
大半の猫が、人間の虐待や心ない行為の犠牲になってしまったのだという。小西氏は、一枚一枚に写された猫たちの、数少ない幸せな時と、無念過ぎる最期を淡々と話してくださった。猫たちと仲良しのブレーリードッグもウサギも捨てられたのだそうだ。小西氏は、きっと写真の一つ一つにストーリーをつけたかったろう。だが、場所柄がそれを許してくれなかった。展示する写真の選択も、場所柄の制約を受けた。
「たくさん文を載せた写真集を出したいですねえ」
ぽつんと語られた言葉に、小西氏の思いの深さが滲む。
小西氏から伺ったすべてをここに書いてしまいたい衝動にかられるが、それは、小西氏自身の言葉と声で語られなければならないのだと思う。
(小西氏のHPの中に『多摩川河川敷の猫』というコーナーがありますので、ご参照ください。)

みなさん、ぜひ立川のオリオン書房まで足を運んでください。そして、小西氏と直接言葉を交わして欲しい。

冒頭に書いた威風堂々、立派な茶トラ猫の絵はがきを買った。実際に合うことは叶わなかったけれど、君が受けた不条理を、加害者と同じ人間として背負って行く、そして君のことは決して忘れないと約束しながら。

2007年6月30日(土)〜7月16日(月) 10:00〜20:00
立川駅北口徒歩3分 オリオン書房ノルテ店 ラウンジギャラリー
東京都立川市曙町2-42-1 パークアベニュー3F
TEL 042-522-1231

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