*後悔先に立たず
昭和61年のことです。Neco家にとって、終世忘れることのできないショッキングなできごとがありました。
当時、Neco家には成猫2匹と生後半年の子猫が1匹いました。小学生だった息子の春休みを利用して、沖縄に家族旅行に出掛けることになった私たちは、この3匹を知り合いの獣医さんに預けて、ルンルン気分で、旅立ちました。
沖縄のコバルトブルーの海辺で降り注ぐ太陽を浴び、日焼けした顔と楽しい思い出を抱えて、5日後東京に戻った私たちは、その足で、猫たちを迎えに行きました。
「お利口にしていましたよ」と誉められながら手渡された猫たちは、どう見ても痩せていました。ご飯をちゃんと食べていたのかしら?と訝しく思いながら、取り敢えず家に連れ帰ったのですが、翌日には、再び獣医さんの元に駆け込むことになりました。成猫の一匹が鼻と涎をたらしながら、苦しそうに喘いでいるのです。注射や投薬の甲斐なく、その猫は翌日、あっけなく亡くなってしまいました。亡骸を抱えて家に戻ると、もう一匹の成猫も同じ症状に苦しんでいるのです。再び獣医さんに駆け込み、そして、またも亡骸を胸に家路につくことになりました。
あんなに健康だった2匹の猫を、僅か1週間で失ってしまったのです。2匹目の猫を回向院に連れていき、前日に連れてきた1匹目の猫の横にそっと置きながら、私たちは5日の旅行を悔やみ、獣医さんを恨み、猫たちにひたすら詫びるしかありませんでした。
まぎれもなく『猫ウィルス性鼻気管炎』でした。思い返せば、猫たちを迎えに行った時、隣のケージにその症状の猫が入院していました。生後半年の子猫が助かったのは奇跡かもしれません。
今でこそ、猫にワクチン接種をするのは、常識となっていますが、当時はまだ、私たちはそんな知識を持ち合わせていませんでした。不勉強と言われればその通りですが、まさか獣医師の元で病気に感染するなどとはゆめゆめ考えもしませんでした。入院患者と預かった健康な猫が、同室で隣り合わせにいることは、常識と照らしてもあるわけはないと思い込んでいました。もちろん、預かっていただけるかどうか尋ねた折に、ワクチン接種が済んでいるかどうかと、問われることもありませんでした。
私たちの二重三重の不勉強が、愛猫二匹の命を犠牲にしてしまいました。しかも、そんなことが起こっていることなど、つゆ知らず、旅先で思いきり羽を伸ばしている間に…。
ワクチンさえ接種していれば、2匹の命は救えたでしょう。預ける先が信頼のおけるところかところであれば、ワクチン接種を義務付けられたでしょうし、まして未接種の猫を感染性疾患に罹患している猫の隣に置かれることなどなかったでしょう。防ぐことのできたはずの病気で、大切な命を二つも失わせてしまったことは、他でもない、私たちの責任でした。良い獣医師を探す努力と、猫の健康に対する知識を持とうと心掛けることは、私たち猫と共に暮らす人間の最低限の義務だと、二匹は、文字どおり身を持って教えてくれました。
*ワクチンとは
免疫とは、体内に侵入した微生物などの異物を排除しようとする反応で、一度排除したことのある感染体が再度侵入した場合、それに対する免疫反応は初回より速やかに効率よく行われます。この獲得免疫を人為的に作りだすのがワクチンです。病原性を弱めた病原体(弱毒性ワクチン)や微生物を死滅させた成分(不活性ワクチン)、また微生物から精製したタンパク質に免疫反応を誘発する成分(アジュバンド)を加えたものなどを注射することによって、疑似感染状態を作り、実際に病気に罹患させずに獲得免疫を成立させるのです。
猫のウィルス性疾患は多数ありますが、その内のいくつかは、このワクチンによって予防することができます。
日本には現在、三種混合ワクチンと猫白血病ウィルスワクチン2種類のワクチンがあります。
【三種混合ワクチン】
猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎、猫パルボウィルス感染症)、猫ウィルス性鼻気管炎、猫カリシウィルス感染症の3種の感染症を予防する不活性アジュバンド添加ワクチンです。生後8週に1回目を接種し、3〜4週間のインターバルを置いて2回目を接種、その後は一年に一度接種するというのが原則ですが、1歳齢で追加接種した後の接種については、3年毎で十分という説もあります。
また、第1回目の接種時期は、子猫の周囲にカゼの症状を見せている猫がいた場合は早める必要があるかもしれません。獣医師に相談してください。
保護した猫の場合、年齢もまちまちで、ワクチンの接種の有無も不明でしょう。保護したらすぐに健康診断を受け、その歳にワクチンについて獣医師と相談してください。
人間のインフルエンザの予防注射などでも、接種する際は健康体であることが求められます。猫も同様です。猫の健康状態を良く観察して、接種するようにしましょう。妊娠している場合は、基本的には接種は見送った方が良いでしょう。
接種当日は、激しい運動やシャンプーなどは避けるようにします。
接種後、元気がなくなったり、食欲が出なかったり、発熱や嘔吐、接種部分の炎症や蕁麻疹などが起こることもありますが、症状が重かったり、長引くような場合は、獣医師に相談してください。
【猫白血病ウィルスワクチン】
猫白血病ウィルス(FeLV)陽性の猫と同居したり、屋外やペットホテルなどで陽性猫と接触する可能性のある場合に接種します。
生後9週に1回目、3〜4週のインターバルを置いて2回目を接種します。1歳齢での追加接種以降は、毎年接種することを奨める意見と、一般的には不要とする説があります。
なお、第1回目の接種に先立って、その猫が猫白血病ウィルスに感染しているかどうかを検査しておく必要があります。感染していても、症状が出ない場合があるからです。最初に健康診断についれていった時に血液検査をして、感染の有無を調べておきましょう。
*ワクチン接種の記録
ワクチンを接種したら、必ずワクチンの種類と接種日を記録に残しましょう。次回の接種時期を知る重要な情報になります。ワクチン接種証明書が発行された場合は、大切に保管してください。ペットホテルや獣医師に預ける場合、またペット共済に加入するに必要になるかもしれません。
【参考文献】
『イラストでみる猫学』
2003年11月20日 第1刷発行
監修:林 良博
発行所:株式会社講談社
【参考サイト】
http://www.catdoctors.com/html/index_care.html
http://www.jbvp.org/pl/cat/densen1.html
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