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爪とぎと爪のケア

* 爪とぎ
*家や家具を爪とぎから守るには
【スクラッチング・ポスト(爪とぎ棒)】
【爪とぎ棒(板、布)の置き場所】
【爪とぎ棒(板、布)を使わせる方法】
【爪とぎ棒(板、布)以外で爪をとぐのが止まないときの対処法】

*爪の被害と解決法

【ディクローは論外】

【爪切り】

【爪カバー】

【参考文献】

 

* 爪とぎ

猫と一緒に暮すときに、一番の悩みの種となるのが『爪とぎ』ではないでしょうか。あっちでカリカリ、こっちでガリガリ。壁や柱はもちろんのこと、高価なレザーの椅子も、お気に入りのカーペットも、見るも無惨な姿に成り果てます。こちらが大事にしているものを知っていて、わざとやっているのかしら、と疑いたくなることもしばしば。でも、もし猫に爪とぎをやめさせよう、などと考えたら、私たちの神経までひっかかれることになります。そんなときは、アーネスト・ヘミングウェイのこの言葉を思い出してください。

『ブタに歌を教えようなどと考えてはいけない。あなたを苛立たせ、ブタにいやな思いをさせるだけだ』

猫がしたくないことをさせることは、できないのです。まして猫が楽しんでいることを止めさせることは、不可能に近いと言えるでしょう。

爪とぎは、猫にとってはとても自然で大切な行為です。爪とぎは、テリトリー誇示の本能的な行動の一部なのです。爪をとぐことによって、爪痕を残すだけでなく、肉球の臭い腺から分泌される個特有の臭いをつけることによって、自分のテリトリーを主張しているのです。自分の爪痕や臭いの残るエリアは、安心できる自分の領分ですから、爪とぎは、猫式ホーム・デコレーションと言えるかもしれません。

また、前足の爪は、猫が身を守るための大切な武器でもあります。猫の爪は、古くなると剥がれ落ちていきますが、爪とぎによって、その古い爪を剥がし、爪をシャープに保つことができるのです。

さらに、爪をとぐ動作は、猫の体操でもあります。爪を掛けて引っぱる動作は前肢の筋肉運動ですし、高いところに爪を掛けて背筋を伸ばす動作はストレッチ体操です。爪とぎは猫ジム、猫ヨーガでもあります。

爪とぎは猫にとって、とても大切で、とても気持ちの良い行為なのです。

*家や家具を爪とぎから守るには

すでに皆さんもご存知のとおり、猫に『お仕置き』をしても効き目はありません。大切な家具で爪をといだと叩かれても、猫はその意味を理解せず、単に非情な扱いをされているとしか思わないのです。ともすると猫との信頼関係を損ないかねません。

では、どうすれば…………

【スクラッチング・ポスト(爪とぎ棒)】

猫に、家具よりもすてきなスクラッチング・ポスト(爪とぎ棒)をプレゼントしてあげることです。家具よりすてきな、と云っても、あなたの感覚ではなく、猫の感覚で考えなければなりません。猫が好む爪とぎ棒の条件を挙げてみましょう。

1. 表面がざらざらしていて、切り裂くことができるもの
ざらざらした麻布を巻き付けたものや、ダンボールでできたものなど、さまざまな爪とぎ棒が市販されています。

2. 縦に置けるもの
猫は、水平より垂直に爪をとぐのを好みます。爪とぎ棒は垂直に設置しましょう。

3. 座りが良く安定しているもの
せっかく爪とぎ棒で爪をといでくれても、それがバタンと倒れるようなことがあると、猫は二度と近寄らなくなってしまいます。台座がしっかりしたものか、壁に固定できるものをえらびましょう。

4. 十分な高さのあるもの
前述したように、猫は、爪をとぐときに、思いきり体をのばして高い所に爪を掛けます。これは、「このテリトリーにいる猫は大きくて、強いぞ」と思わせるためです。ですから、その爪を受け止められるだけの高さが必要になります。最低でも70cmは欲しいところです。

すでに、猫が爪をといでしまったカーペットやラグがあれば、その裏側も絶好の爪とぎ布になります。これを柱や壁に固定したり、また爪をとぎそうなカーペットの部分にのせてもいいでしょう。床に敷いた場合も動かないよう家具で押さえたり、テーピングしてください。

【爪とぎ棒(板、布)の置き場所】

猫の爪とぎはテリトリーの誇示行為ですから、だれからも見られない陰に置いても意味がありません。まず最初は、猫が爪をとごうとする場所に置きます。猫が爪とぎに選ぶ場所は一カ所とは限りませんから、爪とぎ棒(板、布)も複数用意する必要があるかもしれません。家族の生活の空間に、いくつも爪とぎ棒(板、布)があるなんて、考えただけでも邪魔ですね。でも爪とぎ棒(板、布)で爪をとぐ習慣が出来上るまでは、我慢しましょう。しっかり習慣がついても、いきなり移動するようなことはせず、ほんの少しずつ動かしてみてください。

また、スペースが許すならば、各部屋に置いてあげましょう。猫は大喜びするはずです。

【爪とぎ棒(板、布)を使わせる方法】

「ここで、こうやって爪をとぐのよ」と言って、猫の手先を持って爪とぎ棒(板、布)に当て、カリカリと引っ掻く動作をさせる、これが爪とぎのトレーニングの第一歩と思っている方は多いのではないでしょうか。私自身そうでしたし、実際、これで例外なく上手くいきました。でも、どうやら、このプロセスは無意味なようです。猫がその爪とぎ棒(板、布)で爪をとぐようになったのは、そのトレーニングのお蔭ではなく、自発的な行為なのだそうです。訓練や強制を受け付けない猫にとって、その最初の一歩は迷惑そのもの。爪をとぎたい時間や場所を決めるのは、猫自身なのです。まさに Cats rule! ですね。私たちの役目は、猫がその爪とぎ棒(板、布)を使いたい気分にさせてあげることです。

方法1:用意した猫好みの爪とぎ棒(板、布)にマタタビやキャットニップを擦り込んでおきます。魅惑的な臭いに、自ずと引き寄せられます。

方法2:爪とぎ棒(板、布)の上でねこじゃらしを振るなどして、猫の爪が爪とぎ棒(板、布)に引っかかるチャンスを作ります。その心地よい感触を記憶にとどめてもうらおうというわけです。

方法3:ご褒美作戦。爪とぎ棒(板、布)を使ってすぐに、あるいは使っている途中に、大好物のおやつをあげます。

方法4:猫が眠っているそばに爪とぎ棒(板、布)を置いておきます。猫は、目が覚めるとすぐに爪をとごうとするからです。特に、朝、もしくは夜中に目覚めたときにこの傾向が顕著になります。

爪とぎ棒(板、布)を使う習慣づけは、できる限り早期に始めた方が良いでしょう。一旦ついてしまった悪習を直すことが大変なのは、猫も人間も一緒です。前述した方法の内、方法2が子猫には特に有効です。
逆に「ここで、こうやって爪をとぐのよ」は子猫には厳禁です。子猫は爪とぎ棒(板、布)に興味を失うばかりか、「あなたのいいようにはならないわ」と反抗的な態度を持たせかねません。

好ましくない場所で爪をとごうとしたら、やさしく抱きかかえて爪とぎ棒(板、布)のそばに下ろし、撫でてあげてください。撫でられると、手で母猫のオッパイを押すように手をこねる動作をする場合があります。そのとき、爪が爪とぎ棒(板、布)に掛かればしめたものです。この心地よい感触が記憶にとどまれば、良い習慣が身についていくでしょう。

【爪とぎ棒(板、布)以外で爪をとぐのが止まないときの対処法】

爪とぎ棒(板、布)を用意しても、それまで好んで爪をといでいた壁や柱、家具を諦めきれないという猫もいるでしょう。そんなときの対処法をいくつかご紹介しましょう。

方法1:猫が爪をとごうとする箇所をアルミホイルや両面テープで覆います。アルミホイルの感触も両面テープのベタベタも、猫は嫌いです。この不快感が猫を遠ざけます。

方法2:ペット消臭剤を撒きます。爪とぎのときに分泌された自分の臭いは、安心感をもたらし、執着したくなります。ですから、この臭いを取り除いて、執着を切ろうというわけです。ペット消臭剤は、ペットショップやマーケットで市販されています。

方法3:シトラス系の香りをつけます。猫はオレンジやレモンなどのシトラス系の臭いが苦手です。爪とぎ箇所に、シトラスのスプレーやポプリ、オレンジ、レモンの皮などで臭いをつけておくと、猫にとってその場所は、以前ほど好ましいものにはならないでしょう。

方法4:それでも直らない場合は、爪をとごうとするときに、霧吹きで水をかけます。ホイッスルやノイズメーカーで大きな音を立ててもいいでしょう。

いずれの方法も、それまでのお気に入りの場所を不快な場所に変えて、遠ざけようということです。これらは、スプレー行動にも応用できます。

この他、最近では、柱や壁を防御するシートやプレートが市販されています。



爪の被害と解決法

猫の爪とぎに対する対処法はすでにお話しましたが、猫の爪の被害は爪とぎだけではありません。引っ掻かれて思い掛けない感染症(猫ひっかき病)を起こす場合もありますし、猫が甘えて手をグー、パーした時に人肌に食い込む爪も痛いものです。

【ディクローは論外】

そもそも、人を引っ掻いたり、家具などを痛めるのは、『爪』があるため。それなら、爪を抜いて(=ディクロー)しまえばいいではないか……その是非をめぐって、欧米では未だに議論があるようですが、日本ではディクローが話題にも上らないことは、嬉しい限りです。飼い主側にも獣医側にも、動物の体を傷つけることへの大きな抵抗が潜在的にあったからでしょう。
猫にとって、命を守る大切な武器である爪を抜いてしまうことは、無防備なまま敵陣に放り出すばかりでなく、木やフェンスに上って逃げる手段さえ奪うことになります。
室内飼いの猫でも、何かの拍子で外に出る可能性は常にあるわけですし、何より、爪を抜くことは、大変な痛みを伴う外科手術なのです。ディクローによって、猫と飼い主の信頼関係が損なわれたとしても不思議ではありません。


【爪切り】

猫たちがせっせと研ぎ続け、つねにシャープに保っている爪の被害を軽減するには、爪切りをしてあげれば良いのです。

猫用の爪切り(ネイル・クリッパー)は、ペット用品店で市販されていますし、良く切れれば人間用のものも使えます。
まず、猫を膝に抱き、片手の親指で手(足)の上側を、人差し指で肉球側を挟み、ゆっくり押します。すると、爪が前に出てきます。
爪の根本近くにピンクの部分があるのも、はっきり見えます。このピンクの部分は生きている組織で、ここを傷つけると、痛みと出血を引き起こします。爪切り(ネイル・クリッパー)を当てるのは、透明な部分の真ん中辺りです。ピンクの部分のすぐ外側も、危険ですので避けましょう。尖った先だけ切るので十分です。

この作業は二人でとより楽にできます。

猫が嫌がり暴れる場合は、決して無理をしないでください。猫は、大切な爪が危険にさらされていると思えば、必死で抵抗するでしょう。そんな時は、一週間ほど予備練習をします。爪を触られることに慣れてもらうのです。頭を撫でながら、手先を触る、次に手先を押し、爪を一本ずつ前に出してみる、さらに爪の下側を撫でてみる──大人しく爪をさわらせてくれたらご褒美をあげながら、こんな練習をしてください。爪を触ることに抵抗がなくなったら、いよいよ爪を切るわけですが、最初の内は、一度に全部の爪を切ろうとせず、一本か二本で十分という気持ちでいてください。ご褒美は忘れずに。

爪切りの頻度は、どれ位切ったかによりますが、10日〜2週間に1回で十分です。


【爪カバー】

最近では、爪にかぶせるビニール製のカバー(Soft Paws)が市販されています。これは、子供のいる家庭や、留守がちの場合に役立ちます。子供は、猫の嫌がることをして、引っ掻かれる可能性が高いですし、留守がちの家では、爪とぎなど、十分なとレーニングができないからです。
爪カバーは通常前肢の爪のみに使いますが、爪の一本一本にカラフルなカバーをつけると、まるでマニキュアをしたように見えます。

ただし、これを使ってよいのは室内飼いの猫に限ります。カバーをすると、爪は武器としての力を失い、高所に駆け上るという逃走手段も奪われてしまうからです。

室内飼いの猫でも、外に出てしまう可能性はありますし、異物を付けることに対する猫自身のストレスも考慮すると、爪カバーが最善の解決策とは言えないでしょう。

人間の都合を優先するのではなく、猫の爪や爪とぎに対して十分に理解し、寛容な心で対し、猫にとって良い環境を整え、焦らず爪とぎのトレーニングをすることが、何より大切だと思います。



【参考文献】
http://www.catscratching.com/
http://www.declawing.com/
http://www.doctordog.com/kittycorner.html
http://www.thecatconnection.com/
http://www.astdhpphe.org/
http://www.bl.mmtr.or.jp/~shinjou/jintiku3.htm