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猫に必要な栄養素
タンパク質 / 脂肪酸 / ミネラル / ビタミン / 灰分

1. タンパク質
まず、タンパク質について、簡単におさらいをしておきましょう。タンパク質はすべての生体に見られるもので、筋肉や皮毛、骨、器官といった体の組織の成長・維持に不可欠です。組織の成長・維持という役割に使われなかったタンパク質は、エネルギーとして利用されます。タンパク質は、20種のアミノ酸が適切なバランスで組み合わされて構成されており、その配列によってタンパク質の性質が決定されます。タンパク質は一旦体内に入ると消化作用によってアミノ酸に分解され、血液に吸収されて細胞に運ばれ、そこで別種のアミノ酸を合成したり再びタンパク質に作り変えられたりします。

アミノ酸の中には、猫の体内で需要に見合うだけのものが作られるものもあり、これらは猫にとっては非必須アミノ酸ということになります。一方、猫の体内では、需要に見合うレベルが生成できない、または生成の速度が追い付かないアミノ酸は、必須アミノ酸として食事から摂らなければならないわけです。猫にとっての必須アミノ酸は11種(人間の必須アミノ酸は8種)ですが、このどれか一つが欠けたり、不十分になると、それ以外のアミノ酸の利用にも悪影響が出てきます。

猫にとっての必須アミノ酸は、リジン、アルギニン、メチオニン、タウリン、スレオニン、トリプトファン、ヒスチジン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、ロイシンですが、この中で、特に猫に特徴的なのがアルギニンとタウリンです。アルギニンの欠乏は重度のアンモニア中毒を起こし、死につながる場合もあります。また、タウリンが欠乏すると網膜変性、失明、猫によっては心筋症を引き起こすこともあります。猫の食事を考える場合、この二つのアミノ酸には特に注意を払わなければなりません。

タウリンやアルギニンはもとより、猫は高レベルのタンパク質を必要とします。その必要量は体重1Lに対して7.0g、犬は4.8gですから、その必要量がいかに大きいかが分かります。純粋な肉食動物である猫にとって、動物性食物に多く含まれるタンパク質は大切な栄養素なのです。これを見ただけでも、猫には猫の為の食事が必要であり、ドッグフードや人間の食事で代用することはできないことがお分かりいただけると思います。
ちなみに、タンパク質の不足は、食欲の減退、成長不良、体重低下、皮毛の劣化、不規則な発情、生殖行為の減退、母乳の減少などにその徴候が現れます。

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2. 脂肪酸
人間にとって過剰な摂取は大敵とされる脂肪も、ネコにとっては大切な大切な栄養素です。炭水化物をエネルギー源として利用することが苦手なネコにとって、脂肪は貴重なエネルギー源なのです。しかも、同重量のタンパク質や炭水化物と比較して、脂肪が含むエネルギー量は2倍。明日の食べ物にありつける保証のない完全な肉食のネコが命を繋ぐためには、高いエネルギー量を持つ脂肪を効率良く吸収することが重要だったのです。
脂肪はエネルギー源であると同時に、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンを供給します。脂肪は、グリセリンに酵素がくっついてできていますが、体内に取り込まれると、脂肪酸は酵素によってグリセリンと切り離され、利用されます。
脂肪酸も、体内で合成できる非必須脂肪酸と、体内で作り出すことができず食餌から摂らなければならない必須脂肪酸に分けられます。また、脂肪酸はその化学構造によっても分類されますが、中でも重要なのが、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸です。オメガ6脂肪酸の重要性はかなり前から認知されており、
 * 体内組織への血流の調整
 * 傷を負った場合の血液の凝固
 * 正常な生殖作用
 * 負傷や感染に抗する免疫システム
 * 健康な皮毛や皮膚の維持
等に寄与しています。リノール酸はオメガ6の代表で、イヌとネコとでは、このリノール酸の利用の仕方に大きな違いがあります。イヌは、食餌を通して適正量のリノール酸を与えれば、その他必要な脂肪酸を合成することができるのに対して、ネコは、すべてを合成することはできず、もう一つのオメガ6脂肪酸であるアラキドン酸を食餌に入れる必要があるのです。アラキドン酸は動物性脂肪にしか含まれておらず、これからもネコが肉食動物であることが再確認できます。
オメガ3脂肪酸については研究過程ではありますが、神経系や視覚作用をはじめ、ネコの健康維持に寄与していると考えられています。
オメガ6脂肪酸もオメガ3脂肪酸も、良質のキャット・フードには適正量含まれています。

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3. ミネラル
ミネラルは、骨・組織の発達や、身体のさまざまな生理機能を正常に保つためになくてはならない栄養素です。そして、各ミネラルが正常に機能するには、それぞれのミネラルの必要量を摂取することはもちろん、他のミネラルやビタミンの摂取量と適切なバランスを保つ必要があります。特定のミネラルを過剰に摂取したり、逆に不足した場合、身体に有害となってしまうのです。

カルシウムとリン
骨と歯の発達に不可欠です。この二つの内、どちらかが不足すると、両方の栄養価が下がってしまいます。この二つは、リン1に対して、カルシウム1〜2の割合で摂取しなければなりません。リンがカルシウムに対して過剰になった場合、骨の異常を引き起こします。猫は肉食ですが、人間が食べるような精肉ばかりを与えていると、このカルシウムとリンのバランスが簡単に崩れてしまいます。精肉に含まれるリンは、カルシウムの10倍以上。したがってリン過多になってしまうのです。米などの穀類も同様で、米にはカルシウムの10倍以上のリンが含まれています。したがって、これらを与える時には、カルシウムを多く含む小魚やチーズなどを一緒に与えて、不足するカルシウムを補う必要があります。
カルシウムとリンには、ビタミンDも深い関係を持っています。ビタミンDは、カルシウムとリンの血液中への吸収や、骨と歯に貯えられたカルシウム、リンの貯蔵・放出を調節する働きをします。ビタミンDは、血液中のカルシウム濃度を上げる、つまりカルシウムの吸収率を高め、骨や歯に貯えられたカルシウムを血液中に溶け出させるように働きます。したがって、ビタミンDが不足するとカルシウム吸収不足となり、骨が弱くなります。逆に過剰になると、食餌のカルシウムが十分でないと骨や歯からカルシウムを溶け出させてしまうので、こちらも骨が弱くなってしまうのです。

鉄と銅
鉄は、酸素を身体のあらゆる部分に運んでくれるヘモグロビンの生成に不可欠です。しかし、鉄を過剰に摂取すると、リンの吸収を妨げてしまいます。
銅は、鉄が適正に利用されるのを助ける働きをしますが、過剰摂取は、鉄の吸収を妨げてしまいます。
銅か鉄のいずれかが不足すると、貧血を起こします。銅の不足は、骨の異常を引き起こす可能性もあります。
子猫は、貧血状態で生まれる場合もありますから、その食餌に適正量の鉄が含まれていることが大切です。キトン用のプレミアム・フードには、子猫の急速な成長に必要な高レベルの鉄、カルシウム、その他の栄養素が含まれています。

マグネシウム
カルシウムやリンの代謝と深い関係を持っています。また、不足すると、カリウムを消耗してしまい、筋肉が弱くなります。
食餌にマグネシウムが過剰に含まれていると、ストルバイト結石ができる可能性が増し、尿路傷害を引き起こす危険が高まると考えられています。しかし、これには異論もあるようで、キャット・フードに含まれるマグネシウムの量と、ストルバイト結石の生成との因果関係を調査したところ、有意な関係は認められなかったという調査結果もあるようです。より重要なのは、猫の尿の酸性度であり、酸性度が高ければ結石の生成が抑えらるというわけです。成猫の尿が酸性になるよう、特別に作られたキャット・フードもあります。

カリウム
体液の流れや、神経の伝達、特定の新陳代謝に必要です。ただし、過剰摂取すると心臓や肝臓に有害となります。また、不足すると、食欲不振、成長の遅れ、衰弱などを引き起こし、皮毛も乱れます。

ナトリウムと塩化物
栄養素が細胞に行き渡るのを調整し、また水分の代謝も調節します。不足すると、疲労、水分摂取の低下、成長の遅れ、皮膚の乾燥、抜け毛などが現れます。心臓や腎臓に疾患を持つ猫には、獣医師がナトリウム、塩化物の含有量の少ない食餌を処方する場合があります。栄養バランスの取れた良質のキャット・フードは、適正量のナトリウム、塩化物を含んでおり、これらの不足は、健康な猫にはめったに見られません。

亜鉛
骨、筋肉、皮毛の正常な発達に必要となります。不足すると、衰弱や成長の遅れなどが見られます。摂りすぎると、銅の不足を引き起こし、ひいては鉄の不足、貧血を起こします。

微量ミネラル
極めて微量ながら動物の種ごとに必要とされるミネラルのことです。こうした微量ミネラルの働きについては、まだ完全には解明されていません。
コバルト、ビタミンB-12はヘモグロビンの生成に、ロジンは甲状腺の機能に関わっています。マンガンは、骨の正常な形成と発達、生殖作用に必要とされています。また、ビタミンKや血液の凝固にも関連づけられています。カルシウムやリンを摂りすぎると、マンガンの吸収が妨げられてしまいます。
その他の微量ミネラルは、セレニウム、ニッケル、硫黄、モリブデン、アルミニウム、シリコン、クロム、フッ素などです。これら微量ミネラルの最低必要量はまだ分かっていません。栄養バランスの取れた良質のキャット・フードは、さまざまな良質の素材を使っていますので、これら微量ミネラルについても適正量含まれていることは、長い実験結果に示されています。

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4.ビタミン

ビタミンは、細胞交代のバランスを保ち、病気に対する抵抗力を高めると共に、酵素システムの重要な要素でもあります。また、ミネラルを骨や歯の構成要素に変換するのを助け、赤血球の生成や、生殖作用にも影響を及ぼし、食欲や健康な皮膚の維持を助けます。

ビタミンは、油溶性ビタミンと水溶性ビタミンに大別されます。ビタミンA、D、E、Kは油溶性で、体内に蓄積されます。油溶性ビタミンの過剰摂取は、猫にとって有害になることがあります。水溶性ビタミンは、ビタミンB複合体とビタミンCです。これらは体内に蓄積されず、代謝されなかった分は、尿中に排泄されます。したがって、水溶性ビタミンは、毎日摂取する必要があるのす。

<油溶性ビタミン>
ビタミンA(レチノール)
視力の維持を助け、感染から守る働きがあります。適正量のビタミンAは、健康な皮膚・皮毛の維持、正常な骨の発達にとって重要です。

猫は、カロチン(植物に含まれる化合物で、ビタミンAの前形態)をレチノールに変換する酵素を持っていません。したがって、猫はビタミンAを食餌から摂るしかないのです。良質なキャット・フードには、十分なレベルのビタミンAが含まれています。

ビタミンA欠乏症は、成長期に見られることがあります。大人になると、欠乏症はめったになくなりますが、これは、体内に蓄積されたビタミンAを少量ずつ使っていくからです。栄養学によると、ビタミンAが欠乏すると、トリ目その他の視覚障害、皮毛の乱れ、筋萎縮、成長障害などとなって現れます。

ビタミンAの毒性は、長期にわたって過剰に摂取した場合、また、食餌に含まれるビタミンAが突然過剰になった場合に現れます。その症状は、眼球の突出、歩行障害、骨格の痛みや硬直などです。

ビタミンD
カルシウムの吸収を制御し、カルシウムとリンの代謝に必要です。また、正常な骨の石灰化を促進し、骨・関節の生成に必要となります。

猫にとってのビタミンDの必要量は、食餌に含まれるカルシウムとリンの量と割合に影響されます。バランスの取れた良質のキャット・フードには、適正な量と割合が含まれています。

ビタミンDの過剰は、くる病、成長障害、心筋、胃壁、肺、血管のような柔らかい組織の石灰化につながります。

ビタミンE
トコフェロールとも呼ばれる植物性の抗酸化剤で、脂肪の酸敗を防ぎ、正常な繁殖機能を助けます。

猫にとって、ビタミンEが不足すると、痛みの伴う炎症を起こす黄色脂肪症という病気につながります。この病気にかかった猫は、触られることに過敏になり、動くのを嫌がり、発熱や食欲不振といった症状を見せます。

逆に長期間ビタミンEを過剰に摂取すると、他の油溶性ビタミンの効用を低下させ、血液の凝結時間を長引かせてしまうことがあります。

ビタミンK
血液の凝結を促します。ビタミンK不足は猫については見受けられません。

<水溶性ビタミン>
ビタミンB12、葉酸
多くの新陳代謝機能に必要となる他、赤血球の生成、神経系の機能にも重要な役割を担っています。欠乏症のもっとも一般的な症状が貧血で、どちらが不足しても起こります。

リボフラビン(B2)
神経機能、エネルギー利用、健康な皮膚・皮毛の維持、組織の修復に必要となります。欠乏すると、体重の減少、皮膚炎、神経障害などを引き起こします。

ナイアシン(B3)、パントテン酸(B5)
は、皮膚・皮毛、神経システムを正常に保ち、エネルギー利用効率を高めます。ナイアシンが不足すると、食欲不振や皮膚炎を起こしたり、下痢と便秘を繰り返すようになります。パントテン酸が欠乏すると、腸に障害が出たり、成長障害、皮毛の退色などが見られます。

コリン
神経システムの機能、骨の形成、細胞組織の維持を助けます。不足すると成長不良、脂肪肝などの症状が出ます。

チアミン(B1)
神経システムの機能、高率の良いエネルギー利用に必要です。欠乏すると食欲減退、痙攣、麻痺などの症状を起こします。

ピリドキシン(B6)
神経システムの機能に必要です。不足すると、貧血、成長障害、神経システムの退化、痙攣などが現れます。

ビオチン
健康な皮膚・皮毛を保つのに必要とされます。欠乏すると皮膚炎、皮毛の乱れとなります。

ビタミンC
猫はビタミンCを食餌から摂る必要のないことが、最近わかってきました。猫も犬も、体内で必要量のビタミンCを作り出すことができるのです。

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5. 灰分

長年にわたって、食餌が猫の下部尿路疾患に関係すると考えられてきました。灰分は、一時、その一因と思われていましたが、栄養学の研究が進み、灰分は下部尿路疾患の原因とはならないことが分かってきました。灰分を多く含む食餌は、その構成要素が適切であれば、尿路閉塞を防ぐこともできるのです。

灰分は、キャットフードのミネラル分の総量で、キャットフードのサンプルを600℃で2時間燃やした後に残る無機物のことです。

灰分は、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、その他、猫にとっては重要なミネラルを含んでいます。

灰分の少ない食餌は、猫が必要とするすべてのミネラルを供給できない可能性があり、ミネラル欠乏症を引き起こし、ひいては健康を疎外する恐れもあります。

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【参考サイト】
http://www.catdoctors.com

http://www.animalvetcenter.com/cat.htm
http://petnutritioninfo.com/cat_health.htm
http://ighawaii.com/naturally/newsletter/barfcat.html
http://www.cats-and-diets.com
http://www.ain-ah.com/cat/cat301.htm

【参考文献】
ネコの食事百科
1997年11月4日 発行
監修:宮田勝重
発行所:株式会社誠文堂新光社

痛快!ねこ学
2002年3月30日 第1版第1刷発行
著者:南部美香
発行所:株式会社集英社インターナショナル

ネコの病気百科
1998年4月2日 発行
執筆者:獣医学博士、開業獣医師14名
発行所:株式会社誠文堂新光社

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