人間の場合、手間を掛け、心をこめて作る料理は、家族への愛情表現の大切な一部でしょう。そんな意識が、お手軽キャット・フードを与えることに、ちょっとした後ろめたさを感じさせるかもしれません。しかし、前章で見てきたように、猫にとって必要な栄養素、その量とバランスを考えた時、果たしてその全てを満たす食餌を作れるのか、不安になってきます。
確かに、『猫には猫まんま』の時代がありました。それでも健康に長生きする猫もいたでしょうが、20歳を超える猫が決して珍しくない現在とは比べ物にならないくらい、平均寿命は短かったはずです。猫が長生きできるようになった背景には、動物医療の進歩や、飼い主の意識の変化に加えて、良質なキャット・フードの浸透があるように思えます。
『猫まんま』の時代の猫は、自由に外に出て、ネズミをはじめとする小動物を食べる機会にも恵まれていたでしょう。ハンティングによって『猫まんま』では不足する栄養素を補填していたに違いありません。しかし、室内飼いが主流になった現代では、猫は体の欲するものを自力で捕るチャンスもなく、飼い主が与えてくれる食餌が全てとなってしまいます。それだけ飼い主の責任は重いわけです。
私たち人間も、必要な栄養素とその量・割合を数字で追った場合、それを十分に満たす食事をしているか、確かに疑問です。漠然と『バランスの取れた食事』を心掛けるのが精々ではないでしょうか。そして、無性に野菜が食べたい、といった体の要求に応えて、何とかバランスを保っているように思います。しかし、猫の場合、体の要求があっても、それを伝える方法がありません。だからこそ、猫にとって適正な食餌は何なのかを、より真剣に考えていかなければならないのです。
猫はネズミを食べるとき、頭から骨、内臓、皮毛にいたるまで、全てを食べます。全てを食べて、初めて栄養バランスが取れるのです。肉食なら肉を与えれば、と思うのは当然ですが、私たちが食材に使う精肉では、カルシウムとリンのミネラル・バランスが簡単に崩れてしまいます。魚についても、酸化しやすい不飽和脂肪酸がビタミンEを過剰に消費してしまい、ビタミンE欠乏症や黄色脂肪症を引き起こしたりします。
ネズミという猫にとって最高の食材に代わるのがキャット・フードです。キャット・フードは食品ではありません。食品が一定の食材を提供するのに対して、キャット・フードは、一定の栄養成分を提供するものなのです。それは丁度、今流行りのサプリメントに似ています。
良質のキャット・フードは、猫にとっての必要栄養素を適正な量と割合で提供してくれます。
AAFCO(米国飼料検査官協会)の下部組織、「犬猫栄養学専門家小委員会」が定めた「AAFCOキャット・フード栄養素プロフィール」、または「AAFCOキャット・フード給与プロトコル」の評価基準に適合するキャット・フードを「総合栄養食」と呼びますが、このプレミアム・フードは、一生涯、これと水だけで健康を害することがないとされる食餌なのです。
ここで留意しなければならないことは、現在の研究成果に基づいて定められたAAFCO の基準にも限界があるということです。AAFCO基準が示す必要栄養素の数値は、最低値と、これ以上の給与は有害とされる最高値であり、もっとも適切な価を提供しているわけではないのです。「AAFCOキャット・フード栄養素プロフィール」より優位とされる「AAFCOキャット・フード給与プロトコル」の評価基準をクリアしたフードであっても、長期観察が十分とは言えません。そして、これらの基準に沿って作られたキャット・フードは、各年齢段階の平均的な猫を対象としており、個体差までは勘案されていないのです。
私たち自身で、栄養バランスを考え、不足するものはサプリメント等で補いつつ、考えうる最善の手作り食を作れたら、それに越したことはないでしょう。ですが、それには相応の覚悟と時間と労力がいります。無理は長続きしませんから、まずは良質なキャット・フードのプラスαとして与えてあげてはどうでしょうか。
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【参考サイト】
http://www.catdoctors.com
http://www.animalvetcenter.com/cat.htm
http://petnutritioninfo.com/cat_health.htm
http://ighawaii.com/naturally/newsletter/barfcat.html
http://www.cats-and-diets.com
http://www.ain-ah.com/cat/cat301.htm
【参考文献】
ネコの食事百科
1997年11月4日 発行
監修:宮田勝重
発行所:株式会社誠文堂新光社
痛快!ねこ学
2002年3月30日 第1版第1刷発行
著者:南部美香
発行所:株式会社集英社インターナショナル
ネコの病気百科
1998年4月2日 発行
執筆者:獣医学博士、開業獣医師14名
発行所:株式会社誠文堂新光社
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