平成19年弥生猫模様:後続4兄弟(H.19.3.4)

平成19年弥生猫模様:後続4兄弟

4兄弟も、3歳になんなんとしている。Neco家の家族となって2年8ヶ月が経ったのだから、もう新入りと呼ぶのも憚られ、後続4兄弟ということにした。兄弟と言っても、コエリ、モナコ、レオナの3姉妹にシマチュウという構成だ。

この4兄弟、相変わらず人間嫌いの猫好きが続いている。長女と目されるコエリちゃんは、neco家に来て1ヶ月の間は、ベッドの下に隠れっぱなしだったが、この半年ほどで、背中を撫でさせてくれるまでになった。だが、いつでも、どこでもOKというわけにはいかない。自分が撫でて欲しいとせがんだ時に限られる。場所も私たちの寝室の続き部屋、と決まっている。この部屋には、猫トイレ1つとご飯皿4つ、水のお皿1つが置かれていて、おねだりすればドライフードを入れてもらえる。常にご飯が用意されている1階と違って、おねだりしてはじめて入れてもらえるフードの味は一際美味らしく、4匹はそれを楽しみにしている。同じフードを1階であげても、見向きもしないから、面白いものだ。


コエリちゃんの、『撫でて〜』は、そのご飯皿の前から始まった。もっとも、食事中のコエリちゃんの背中を、おっかなびっくり撫でたのがきっかけなのだろう。案外悪いものでもない、と感じたコエリちゃんは、以来、お尻を高く上げるようにして、『撫でて〜』と催促するようになった。言われるままに撫でていると、余程悦に入っているのか、頭を床につけ、お尻を高くしたままずるずると歩き回り、部屋を半周してしまうこともある。だが、引き際を間違えると大変なことになる。突然「シャーッ」という威嚇音と同時に猫パンチが飛んでくるのだ。『もっと〜』と乞われている内に手を引くに限る。撫でる箇所も、頭と背中だけ。お腹の方に手を回そうものなら、流血の惨事となる。

先日、おとうさんが、コエリちゃんの脇の下に手を入れて、持ち上げてみた。しっかりと体を挟んでいれば、少しは我慢してくれる。はじめて見るコエリちゃんのお腹だ。お腹の中央は白いのだが、左胸の下の辺りに、ハート型の模様を発見。コエリちゃんの隠された心根を見るような気がして、胸が熱くなった。

そんなコエリちゃんの変化にもかかわらず、レオナは、相変わらず人を見ると逃げて回る。うっかり気を抜いて捕まってしまえば、特段身を固くするわけでもないから、逃げるのは、コエリちゃんの物まねとしか思えない。日頃さんざん逃げ回りながら、『遊んで〜』とせがむ相手は人間だ。私の顔をじっと見ながら、『ぴー、ぴー』と赤ちゃんのような声でなき続ける。一向に大人びることのない幼顔で『ぴー、ぴー』となかれては、用事も後回しにするしかない。レオナが大好きなのはネズミのオモチャだ。振るとシャカシャカという小気味の良い音のするネズミ君を、隣の部屋目がけてぽーんと投げる。レオナはダッシュして取りに行き、一、二回手で転がしてから、口にくわえて持って帰ってくる。また投げると、またくわえて戻る。だが、ネズミのキャッチボールは、いつも中断されてしまう。動く物に目のない猫のこと、いつの間にか、投げられたネズミに向って三匹も四匹もがダッシュしている。
「せっかく、あたしがおねだりして遊んでもらってたのに〜」
レオナは、ぷいとその場を離れて、お気に入りのぬーちゃんの元へ。大きくて、ふわふわで、あったかなぬーちゃんは、添い寝パートナー・ランキングNo.1だ。レオナは、トンちゃんとぬーちゃんの取りっこをしているが、昼間はレオナ、夜はトンちゃん、と暗黙の了解ができているようだ。レオナは、2階のベッドの上で、ぬーちゃんの懐に潜り込み、チュパッチュパッと大きな音を立てながら、胸の毛を吸う。ぬーちゃんの胸は、じきに赤剥け状態になり、痛々しいが、ぬーちゃんもレオナが可愛いと見え、嫌がる素振りもない。


いささか肥満気味で、おばさん体型になったとは云え、声も顔立ちも思いも赤ちゃんのままのレオナにとって、3歳(人間の歳で26歳)という年令は単なる数字にすぎないのだろう。

ナコは、会社の外猫のズレータと瓜二つ。外見も似ていれば、風変わりなところまで、そっくりだ。ズレータという名は、感覚がズレていることに由来している。おとうさんなど、モナコのことまでズレータと呼ぶ。とにかく行動が予測不能、表情から何かを読み取ることもできない。独立心が強いのか、だれかとツルむこともない。撫でても逃げないが、喜びもしない。自己主張することもなく、何かに執着するわけでもなく、それでいて、存在感は決して希薄ではない。顔は小さく、体はスリム、Neco家では希少な存在だ。

回りに無関心そうでいながら、好奇心と観察力は鋭いのだろう。人間がドアノブを押してドアを開けるのを観察していたモナコは、自分が背伸びしてもドアノブに手が届かないのを知ると、階段からノブ目がけて飛び、ドアを自由に開けることを覚えた。猫たちの生活空間に属しないお風呂場も興味津々。良く出入りしていたが、先日は、何をどうしたのか、お風呂に落ちた。身が軽いから、むささびのように宙を舞うし、何喰わぬ顔をして革製の椅子で爪を研ぐ。なぜか、常にヒゲは折れていて、2cm以上に伸びたことがない。とにもかくにも面白い存在だ。

だが、何を考えているのか、いないのか、知る手がかりがなにもない、というのは寂しいものだ。モナコと目が合う度に、その胸の内を探ろうとするのだが、何も見えてこない。コエリちゃんの目には、警戒が見てとれても、モナコの真っすぐにこちらを見つめ返す青い目には、私の窮した顔しか映らない。数多くの猫たちとの長い付き合いの中で、モナコのような存在ははじめてだ。果たして、何らかの絆を感じる瞬間がやってくるのだろうか。

モナコ同様、目に表情が映らないのは、シマチュウも同じだ。お腹が空いていようが、眠かろうが、いたずらを探していようが、同じ表情が顔に張り付いている。だが、シマチュウは動作で語る。常に大好きな宮沢さんに付いて回る。付いて、というと語弊があるかもしれない。一緒に寝ていた宮沢さんが起き上がると、シマチュウも慌てて起き出して、宮沢さんの行く先々に一歩先回りするのだ。だから、『オフサイド』というあだ名が付いた。宮沢さんにとっては、鬱陶しいだろうが、憎みきれない愛らしさがシマチュウにはある。

唯一、宮沢さんが許せないのは、大好きなおばあちゃんとの昼寝の時間に、シマチュウが割り込んで来ること。おばあちゃんの腕まくらで向き合って寝ている、その間に大きな体をねじ込んでくるのだ。おばあちゃんと協定を結んだ宮沢さんは、隙間がない程おばあちゃんにくっ付いて寝ることにした。いつもの通りやって来たシマチュウは、鼻先でスペースを探ったが、入る余地がない。諦めきれず、しばし佇んでいたが、しぶしぶその場を立ち去った。宮沢さんとの約束とは云え、おばあちゃんはシマチュウが不憫になったという。

そんな協定があったとはつゆ知らず、シマチュウは宮沢さんを慕い続ける。何を勘違いしているのか、宮沢さんは、シマの上に馬乗りになって、首筋を噛んで引っぱり上げるのもしばしば。シマチュウは、あまりの痛さにか細い悲鳴を上げる。見兼ねた私が、宮沢さんの顎の両端を挟んで引き離すのだが、シマは解放されて逃げるわけでもない。そのまま、宮沢さんに寄り添っている。やれやれ、困ったものだ。

後続4兄弟も、四匹四様、個性派揃いだが、兄妹喧嘩をするわけでもなく、先住猫を慕いながら暮らしている。これからの一年で、コエリちゃんと人間との距離が更に縮まるのだろうか。モナコの目の色が読めるようになるのだろうか。一年後も、レオナは、『ぴーぴー』となき、ぬーちゃんの胸の毛を吸っているのだろうか。シマチュウは、オフサイドを続けて、みんなに呆れられているのだろうか。お楽しみ、お楽しみ。