平成19年如月猫模様:ロッキー家7匹衆(H.19.2.12)

亡きロッキーの弟妹6匹と兄とおぼしき1匹、つまりロッキーママの子供7匹の力関係は、随分変わってきた。

これまで出会い頭に猫パンチを繰り出して、自己主張を続けてきたニセドとトンちゃんが、最近では劣勢に立たされている。この2匹の猫パンチは健在なのだが、それが虚勢だと見破られてしまったのだ。

おばあちゃん子で引っ込み思案、いるのかいないのか、目立たない存在だったゴンちゃんが、俄然、強くなった。昨年、トンちゃんとの大喧嘩の末、まったく出なくなった声が、数ヶ月して戻って来たが、この頃から二匹の立場は逆転した。喧嘩を売るわけではないが、売られた喧嘩は怯まずに買い、声も手も出さずに、トンちゃんを部屋の隅に追い詰める。トンちゃんは、あえなく降参。ゴンちゃんは、自分の本来の力量に気づいて自信を持ったのか、人前に出ることも多くなった。ゴンちゃんの仲良しは、らーちゃんだ。らーちゃんが閉まっている居間の扉の向こうで座っている姿をガラス越しに見つけると、ゴンちゃんは、自慢のボーイソプラノでなく。「らーちゃんを入れてやって〜」というわけだ。仰せの通りドアを開けると、ゴンちゃんは、居間に入って来るらーちゃんを出迎える。二匹でおでこを擦り付け、寄り添うように並んで歩く。

らーちゃんは、相変わらず、ニセドとトンちゃんの猫パンチの標的だが、もう卑屈になったりはしない。猫パンチは避けるに限るから、この二匹の傍を通るときには用心しているが、それでもたまに当たるパンチの一つや二つには動じない。何しろ、面倒見の良いらーちゃんには、ゴンちゃんと4匹の新入り(もう3年になるが)という強〜い味方がいるのだ。その上、一旦どこかの飼い猫となり、その後捨てられてしまったらーちゃんは、neco家にやって来るまで野良の生活を経験している。修羅場もくぐってきたに違いない。箱入りの柔な6匹兄妹とは違うのだ。小振りで、柔和な表情の奥に秘めた芯は強い。だから、堪忍袋の緒が切れると、こちらも無言のまま、トンちゃんを隅っこに追い詰めてしまう。

張り子の虎のトンちゃんは、ストレスを貯め込んで、あちこちにスプレーして回る問題児と化している。どうしようもない子だが、年々幼くなっていくような邪心のない表情と、天下一品の艶やかで滑らかな皮毛、膝にぽんと乗り甘える仕草に、吊上げた目尻もだらしなく下がってしまう。

もう一方の空威張りのニセドは、というと、孤立を深める一方だ。猫パンチが効かないと知ってからは、だれかれ構わず威嚇の「シャーッ」を連発しているが、こちらも効果なし。慕って寄ってくる弟分、妹分もいず、寂しく独り寝の毎日だ。とりわけ相性が悪いのが、宮沢さんで、始終追い掛けられては、2階のベッドの下に隠れている。宮沢さんは、かなりねちっこい性分だから、ベッドの下に避難したニセドを、部屋の入口でじっと見張っている。お蔭で、ニセドは2時間以上もベッドの下から出られない。6匹兄妹の長男としての威厳を保てなくなったニセドは、さぞかし苛立たしいのだろう。最近は大声で鳴き続けている。このままでは、早晩ご近所からクレームが来るのではないかと、気が気ではない。

ぬーちゃんは、相変わらずマイペースに過ごしている。巨大結腸症の予備軍であるぬーちゃんは、毎晩、排便を助けるサプリメントと緩下剤を服用。サプリメントは、べたべたするし、緩下剤は注射器で口の中に入れられるし、ぬーちゃんにとっては最悪の時間だ。私が薬の入っている抽き出しを開けた途端に、そそくさと逃げ出す。

ぬーちゃんの一番の楽しみは、玄関から外に出て、アロエに顔を擦りつけることだ。脱走の心配はないから、リードも付けず、半歩離れたところで、見守っていればいい。毎朝、バスマットを外に干すのを知っているぬーちゃんは、ちゃんと玄関で待機している。だが、玄関ドアが開いた瞬間に触れる風が冷たいと、くるりと回れ右。雨が降っていても同様。大きな体に似合わないその俊敏な動きに、思わず吹き出す。

ぬーちゃんは、面倒見がいいわけではないが、ふかふかとしたお腹は魅力的らしく、ぬーちゃんが横になると、トンちゃんかレオナのどちらかが、さっと胸に潜り込む。その上、両手を交互に押しながら、ちゅぱちゅぱとオッパイを吸い始めるから、ぬーちゃんは大変だ。伸ばした手の爪はぎゅっと出ているし、吸われたオッパイは真っ赤になるし。結構我慢してくれているが、あまりの痛さに泣くこともある。

教授の異名を持つ宮沢さんは、このところ、研究がおろそかだ。以前、欠かさず食い入るように見ていた、日曜朝のNHK、『自然百景』にも、反応が鈍くなっている。研究もしない教授は、やはり尊敬されない。その反動か、どうも近頃、喧嘩を仕掛けることが多い。相手は、ニセド、トンちゃん、そしてエリちゃん、と決まっている。喧嘩の発端は、おばあちゃんの取り合いだ。毎晩おばあちゃんの腕枕で眠る宮沢さんにとって、おばあちゃんの枕元で寝ようとする輩は許せないのだ。それほど大事なおばあちゃんだから、おばあちゃんが病気の時には必死の看病をする。咳き込めば顔を舐め、独特の抑揚のある話し方で慰める。おばあちゃんが寝込んでいる間、決して離れることはない。おばあちゃん子といいながら、病気の時は傍に寄りもしないゴンちゃんとは大違いだ。

ニセド、トンちゃん、宮沢さんが、遊び半分で攻撃をしかける相手は、エリちゃんだ。追い掛ければ逃げてくれるし、俊敏だから追い掛け甲斐もある。おとうさんと居る時以外は一人になりたいエリちゃんにとって、遊びであろうが本気であろうが、ちょっかいを出されるのは耐え難いらしい。逃げてばかりいても、と思ったのだろうか、最近は物陰に隠れて仕返しのチャンスを狙っている。何気なく通りかかったトンちゃんやニセドに、椅子の下から猫パンチを見舞うのだ。この的中率はかなり高い。先日は、その一発を発端に、トンちゃんと取っ組み合いの大喧嘩となった。トンちゃんの顔とお腹に数本の爪傷が残り、エリちゃんの耳は裂けた。傷は完治したものの、耳の一部は千切れてしまっている。家のない牡猫の耳はよく切れているが、雌猫でこんな耳を持つ猫には、未だお目にかかったことがない。しかも箱入り娘だというのに。

日中は、緊張の連続なのだろう。夜は大好きなおとうさんと一緒に早々にベッドに入り、朝おとうさんが起き出してもなかなか布団から出ない。その間、一歩もベッドを抜け出さないから、何も口に入れていない。何だかエリちゃんが痩せてきたように思えて、少々気がかりだ。

そんなこんなで、一日中心配の絶えない七匹だが、その一因は生活スペースの不足にあることは間違いない。先月末にneco家の人間の一人息子が、一人暮らしのために引越していった。これまで閉め切りだった2階の6帖間の扉が開放された。主も荷物もないガランとした空間は寒々しく、ことさら大きく感じられるが、その不在感を猫たちが埋めてくれている。扉が開いて以来、日に何度も大運動会が催されるようになった。その地響きは大変なもので、その度に天井を見上げては苦笑する。でも、彼らが自由に駆け回れる空間ができたことは喜ばしい。走ってストレスを発散させ、思い思いの場所で眠れれば、喧嘩もやがて下火になってくれるだろう。そう願うばかりだ。