平成19年正月猫模様:外猫5匹衆(H19.1.13)

年初めに、neco家と縁のある猫たちの様子を記しておこうと思うのだが、一匹ずつ書き留めると延々時間がかかり、2005年など、全員を網羅できたのは8月だった。今年は、もう少しあっさりと、ブロックごとに書いていこうと思う。

まずは、昨年師走にニューフェイスを加えた、会社の外猫5匹衆から。

元旦から4日まで、姿を現さなかったコアネも、仕事始めの5日の朝以来、無遅刻無欠席が続いている。日頃も、週に何度かは姿を見せないコアネのこと、他に餌場を確保していて、今回もそこで新年の食事をしているものと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

本年初お目見えの5日など、その食べっぷりはひどいもので、自分のお皿にご飯が入れられるのを待つことができず、最初にご飯を貰う年長のホワイトソックスを蹴散らし、ガツガツと食べ始めた。気は強くはないものの、集団の序列でもある食事の順番は守り通してきたホワイトソックスも、その気迫に気圧されたように一歩退き、コアネの様子を唖然と眺めている。

カランカランカランとドライフードが音を立てて順にお皿に入ると、コアネもまた、次のお皿、次のお皿と頭を突っ込む。もちろん、全部中途半端に食べているのだ。

最後に新入りのあっちゃんのお皿に子猫用のフードが入る。コアネは、食べかけのお皿を後にして、あっちゃんのお皿に近づく。大食漢のあっちゃんは、怯むことなく食べ始めようとしたのだが、コアネは「シャーッ」と威嚇までしてあっちゃんをどかし、子猫用のフードを頬張る。コアネを自分のお皿の前に連れて行っても、臭いを嗅いだだけで、あっちゃんのお皿に戻ってしまう。久方ぶりに口にした子猫用のフードがよほど気に入ったと見える。

仕方がない、全員が大好きな缶詰を入れれば、丸く収まるだろうと思ったが、コアネは、子猫用フードにこだわり続けた。余程お腹が空いていたのだろう。コアネの所業は目に余るものがあったが、叱る気にもなれなかった。

明くる日もコアネの食べ荒らしは続いた。だが、ホワイトソックスは、威厳を取り戻し、自分のお皿を奪還した。コアネは仕方なく、2番目のお皿に落ち着いた。手早く全員のご飯を配り終え、やれやれと猫たちの丸い背中を順に眺める。と、三番目のお皿が手付かずのままだ。タマサがその前に居心地悪そうに正座している。
「どうしたの?お腹空かないの?」
「……」
「えっ!もしかして……」
お皿の順番が問題なのかもしれない。タマサは普段、ホワイトソックスの隣、2番目のお皿で食べているのだが、今、そのお皿はコアネが占拠している。タマサとしては3番目のお皿に甘んじるわけにはいかないのだろう。

食べ手のない3番目のお皿を、列から外し、私のすぐ足下にもってきて、タマサをその前に座らせた。案の定、タマサはいつもの気持ちの良い食欲で食べ始めた。
なーるほど。猫の自尊心は侮れない。

その日の夕暮れ時、ズレータが夕食をせがみに事務所のバルコニーにやって来た。ぽーっ、ぽーっ、という鳩のような独特の鳴き声は、シマチュウと同じだ。見掛けはまったく違っても、まぎれもない兄弟であることの証。この鳩声は、以外に通るもので、閉め切った事務所の窓越しに、しっかりと聞こえてきた。バルコニーのドアを明けると、ズレータが寄り目がちのブルーの目を見開いて、事務所の中を覗き込んでいる。落ち着いて朝食を取れず、お腹が空き切ってしまったのだろう。

事務所には、幸い旦那様と私の二人。ズレータの視界には、私しか入らない。
「どうしたあ?お腹空いちゃったの?ちょっと待っててね。大好きな缶詰を用意してくるから」
バルコニーに通じるドアは、バルコニーより一段高くなっている。ドアに続いて幅50センチほどの段があり、そこを下りてバルコニーに出るようになる。ズレータは、その段の真下で待っていた。用心深い家系だから、決して段を上ろうとはしない。私は、意地悪にも段の上にご飯皿を置いた。一度上ってみれば、その内、事務所の中にも遊びに来てくれるのではないか、と目論んだわけだ。
腹ぺこのズレータは、多少逡巡したものの、勇気を奮い起こして段を上った。
(その調子、その調子……どうぞ召し上がれ)
ズレータは一番大きな塊をくわえると、さっと段を下り、ドアから離れたところで食べ始めた。
(さあ、もう一度上っておいで)
だが、二度目はなかった。段の下で、じっと待つばかり。猫と我慢比べをして、勝てる人間は滅多にいないだろう。
(はい、はい、わかりました。お皿をそちらに下ろしましょうね)
私は、あっさりと敗北を認めた。ズレータは、満腹するまで食べて帰っていった。

かがみ込んで、僅かに鰹フレークの残るお皿に手を掛けながら、ふと事務所の方に顔を向けた。丁度、バルコニーに座るズレータの視線だ。私のパソコンデスクが、すぐそこに見える。半分口を開けながら、画面を見入る私の間の抜けた横顔を、ズレータは何度となく目にしていたに違いないと思うと、何とも気恥ずかしい。それにしても、事務所の何と明るいことだろう。冬の黄昏時、蛍光灯の白々とした灯りでも、無性にあたたかく見える。闇に紛れて眠る猫たちを改めて思い、この明るさが切なかった。

コアネの傍若無人な食事は4日繰り返され、今はようやく以前の落ち着きを取り戻した。

あっちゃんは、すっかり先住4匹に溶け込んだ。毎朝5匹で私を出迎え、私を振り返りながら、半歩先を歩いて、ダイニング・スペースまで誘導してくれる。
ところが、とりわけ寒かった日の朝、私を待っていてくれたのは、あっちゃん一人だった。ドライフードを入れる音を合図に、残る4匹もすぐに集合したのだが、一人待つあっちゃんの姿を思い返して、吹き出してしまった。
「おい、新入りのチビ、今日は寒いから、お前一人で迎えに行ってこい」
とでも言われたに違いないのだ。
かと云って、みんなに疎んじられているわけでは決してない。夕刻になると、ステーキ屋さんが軒下に置いてくれるダンボール箱の中に、タマサとズレータに寄り添うように座り、夕食を待っている。

あっちゃんがどれほどの月齢になるのか、定かではないが、早晩、避妊(去勢?)に連れて行かなければならない。何とかこの手に抱き上げてキャリーに入れられればいいのだが。試しに、そっと背中に手を伸ばしてみるのだが、毎度慌てる様子も見せずに、巧妙にすり抜けられている。手の平に残る毛並みの心地よさにほんわりとしながらも、どうやって病院に連れて行こうかと思案の毎日。何しろ、このところ、やたらに手を伸ばす私を、一層警戒するようになってしまったのだ。

2007年の大仕事は、あっちゃんの避妊(去勢?)手術となりそうだ。