2005年卯月猫模様 その1(H.17.4.8)

【レオナ】
Neco家の家族になった日:2004年7月4日
誕生日:2004年5月頃?
<家族になった経緯>
チョコちゃんの初出産で生まれた5匹姉弟の次女、こえりちゃんの妹。ビルの谷間にいた頃は、全身グレーのこの子は、遠目ではゴミと見分けがつかず、どこにいるのか、探し当てるのも一苦労だった。しかも、一人離れてじっとしていることが多く、生きているのか、死んでしまったのか、始終気を揉んだ。活発なこえりちゃんが、一緒に遊ぼうとちょっかいを出して、ようやくもごもご動く。「あっ、動いた!」とほっと胸をなで下ろす日々だった。シマチュウとモナコを保護して間もない7月4日の夕方、社員さんがレオナを抱いて、事務所に入ってきた。真ん丸な顔に真ん丸の目、真直ぐに伸びる尻尾、全身のきれいなグレーの縞。額に『M』の字がくっきりと浮き出た、完璧な子猫だった。そのまま家に連れて帰り、一足先にneco家に来ていたシマチュウ、モナコとともに写真撮影をして、さっそく里親さん募集のポスターを作った。ボランティアのSさんのお力添えで、ポスターは、獣医院、ペットショップ、図書館、お風呂屋さんなどに掲示された。保護したとは云え、母親の元にいた赤ちゃん猫たちは、ガリガリの痩せっぽではなく、ふわふわと愛くるしかった。中でもレオナは、だれが見てもピカ一だった。すぐにでも里親希望の方からの連絡が入るだろうと思っていたが、意に相違して、なかなか電話は鳴らなかい。もともと、里親さんが見つからなければneco家で暮せばいい、と思っていたから、焦るどころか、鳴らない電話にどこかほっとしていた。そんなある日、里親さんとして申し分ない方が、事務所を訪ねてこられた。予想通りレオナちゃんを里子として迎えたい、という申し出だった。すでに、心の中でneco家の家族にしてしまっていた赤ちゃん猫たち、しかもその中の一匹を手放すのは所詮私には無理だったのだろう。だが、里親さんが見つかれば、その数だけ、neco家で保護できる数が増えるということだ。別れの辛さをぐっと堪えて、里子に出す準備を始めた。家族の面々は、私のそんな様子を、「できもしないことを……」と眺めていたという。別れの前の晩、最後にneco家にやって来たこえりちゃん、決して私たち人間の前に出てこようとしなかったこえりちゃんが、キャットベッドで眠るレオナちゃんの上に覆い被さるようにして、必死の視線で私たちを見つめた。どこからどう見ても、「レオナちゃんを他所のお家にあげないで。私たちをバラバラにしないで」と訴えていた。私の悪あがきも、これで終わった。翌朝、お詫びの電話を入れることにし、久しぶりに心穏やかに眠りについた。翌朝、私が里親さんの電話番号を探している間に、先方からの電話が鳴った。HPで、子猫たちが先住猫と仲良く暮している写真を見ているうちに、決意が鈍ってしまったという。私も正直にその時の気持ちを伝え、里親さんを申し出てくださったことに感謝し、私のいい加減さを詫びた。レオナは、neco家の家族になった。
<2005年弥生近況>
レオナの元の名は『マッピー』だった。レオナを抱いて、事務所に連れ帰った社員さんががそう名付けた。額の鮮やかな『M』の字にちなんでの命名だ。名前は不思議なもので、いくつも変わる子もいれば、最初の命名どおり、たった一つの名前で通す子もいる。マッピーは、成長するにつれ、次第に手塚治虫氏の描く『レオ』に似て来た。だが、『レオ』は男の子の名前。だから、それに『ナ』を加えて、『レオナ』と呼ばれるようになった。おばちゃんは、この名前がすぐには出てこないようで、『ねずみちゃん』などと呼んでいたりする。ときには、『ねずみー』と呼び捨てにもする。というのも、レオナは、いつの間にか、人が近づくと逃げるようになったのだ。こえりちゃんの真似をしているに違いないのだが、警戒心が異常に強く、人を信じ切れないこえりちゃんと違い、真ん丸お目めの愛くるしいレオナが逃げる様子は、絵にならない。逃げるこえりちゃんはそっとしておいてあげようと思えても、レオナが逃げると追い掛けたくなる。「こら、ねずみー!」というわけだ。すんでのところで、捕まってしまったねずみ、いやレオナは、捕まったら捕まったで、おとなしく抱かれている。もっともゴロゴロ喉を鳴らすことなど、決してないのだが。
レオナは、ぬーちゃんが大好きで、ほんの少し前までは、ぬーちゃんのおっぱいを吸って眠っていた。お陰で、ぬーちゃんのお腹は赤剥けて、痛々しかった。今でも思い出したように、ぬーちゃんのお腹に鼻先をぐいぐい押し付けておっぱいを探し、ちゅぱちゅぱと音を立てて吸っている。巨漢のぬーちゃんにさして見劣りしないほど大きくなったというのに。その時、レオナが鳴らす喉のゴロゴロの大きいこと。いつかこのゴロゴロを、人間にプレゼントしてくれることはあるのだろうか。
レオナが唯一人間に近寄ってくるのは、オモチャをねだる時だ。このところのレオナのお気に入りは、薬の殻。処方薬をプチッと取り出した後の殻だ。2錠取り出して、殻を2つに折ったもので、サッカー遊びをするのだ。毎食後、おばあちゃんが薬を取り出すと、どこから飛んで来たのか、レオナちゃんが椅子に乗ってじっとおばあちゃんの手元を見つめている。何種類もの薬を飲むおばあちゃんは、「何色がいい?ピンクがいい?それとも緑?」などと言いながら、薬を出し、いつも数を間違えている。ピンクや緑の殻を投げてもらうと、レオナは嬉々としてサッカー遊びに興じる。「こんな時ばかり来て、いつもは逃げるんだから……」と愚痴りながら、おばあちゃんもまんざらではない様子。
レオナが飛んで来るもう一つの場面がある。それはエリちゃんがご飯をもらうときだ。エリちゃんがおねだりして、2階の自分のご飯入れにドライフードを入れてもらうと、例外なくレオナが飛んで来る。ゆっくりお皿に近づくエリちゃんの先を越して、お皿に顔を突っ込むレオナに、エリちゃんは、気勢を削がれてしまうのか、お皿は二つあるのに一向に食べようとしない。そんなエリちゃんをよそに、コリコリ、パリパリと軽快な音を立てて、レオナは食べ続ける。
周囲の空気などお構い無しのレオナは、今日も、薬の殻を追い掛け、エリちゃんのご飯を横取りしている。