愚痴 (H.16.9.19) 事務所の外猫の避妊と去勢にメドが立ち、ほっと一息ついた折も折、私宛にこの事務所のオーナーより電話が入った。猫のことだろう、とすぐにピンと来た。案の定、猫たちにエサをやるのは止めてほしい、という内容だった。今日開かれた理事会で、私宛にそう伝えてくれ、と言われたという。 「何か猫たちが御迷惑になるようなことをしましたでしょうか?」 どうにも噛み合わない会話だった。噛み合わないのも無理はない。オーナー自身も本音と建て前が違うのだ。だからこそ、「お伝えしておきますから」の後に「後はご随に」という含みを持たせてくれているのだ。 「あの猫たちを守りたかったら、隠れるようにご飯をあげて、食べ終えるまで待って、お皿を残さないことだね。猫の名前を呼んでもいけない。それしか、あの猫たちを守る方法はないよ」 以前、管理人さんに、「ノラ猫にエサをあげている人がいるというクレームがあった」と聞かされたとき、私はそれを真正面から受け止め、言いたいことをぶつけた。それを見ていたステーキ屋さんが、あんなに真っ向勝負をしちゃダメだと言った。こっそりご飯をあげていればいいのだから、と。でも、私はそれが嫌だった。管理人さんには、それ以来折あるごとに、猫の捕獲や避妊の話をした。そもそも管理人さん個人は、エサやりに反対なわけではなかったから、私の労をねぎらってくれた。私は、労いの言葉が欲しかったわけではない。ただ、私の代弁者になってほしかったのだ。私に直接クレームを言う人はいなかった。必ず人を介していた。だから、私にクレームの主と話す機会は与えられなった。管理人さんが私の代弁者になることは、立場上無理なことはわかっていたが、一言でもいい、相手にもう一度考えてもらうきっかけになるような言葉を伝えてほしかった。 ステーキ屋さんやお父さんの言う通り、猫たちを守るためには、隠れてこっそり、泥棒のようにご飯をあげなければならないのかもしれない。私は好戦的なのだろうか。私の本音を言えば、このビルを追い出されるまで白昼堂々とご飯をあげ続けたい。もちろん、管理会社、理事会、住民の理解をいただけるよう、書面も配付するだろう。理事会にも出席させていただくだろう。嘆願書の署名運動をするかもしれない。それでも追い出されることになったなら、裁判に訴えるだろう。管理規約が変わっていない限り、敗訴するだろう。それでもいい。コトを大きくすることが肝心なのだ。コトを大きくしない限り、猫はたかが猫として片付けられてしまうのだから。アメリカ人は訴訟好きで知られるが、彼等が些細なことに100万ドルの損害賠償を求めて裁判を起こすのは、「さあ、話し合いましょう」というメッセージだとか。それなら、私も立ち退きに対して1億円の損害賠償を求めようか。そして、経緯の一部始終を書き、世論に問いかけよう。生まれてきた猫がそこに生きる権利と、生きられるよう正当な手助けをする権利が認められるように。その間も、私は猫たちにはご飯をあげ続けるだろう。道路に呼び出して食べさせれば、不法侵入で訴えられることもないだろう。 ここの猫たちは、鳴かない。敷地内に糞もしていない。たまに駐輪場にいることはあっても、居住スペースに出没することもない。彼等の居場所は、金網の向こう。隣のビルとの間のわずか40cmの隙間なのだ。人間もはいれないゴミの山の上がねぐらなのだ。だが、哀しいかな、ご飯をあげる場所はこのビルの共用部分。一般の住人はおよそ入ることのない場所なのだが、共用部分であることに変わりはない。 |