おばあちゃん子は薄情者??? (H16.2.5)

おばあちゃんが、風邪で丸三日寝込んでしまった。高熱が出た割に、回復が早かったが、この間に猫たちの知られざる一面を垣間見ることができた。

早起きのおばあちゃんが、起きてこない。日中もずっと寝ている。何かがおかしい、とどの猫も感じとったに違いない。ところが、この異常事態に対する対応の仕方は様々だった。

一人では思うように食べられないチビタは、お腹が空くと、巻舌っぽい上がり調子の独特の声で泣き続けるのだが、このチビタが全く泣かない。ご飯皿の前で、両手を揃えてすわり続けるだけなのだ。
チビタは、フレーク状の猫缶とペースト状の猫缶をよく混ぜたチビタ専用のご飯しか食べられない。ドライフードを食べることもできなければ、兄ちゃん猫のご飯を失敬することもできない。お腹が空けば、ねだり続けるより仕方がないのだ。おばあちゃんだけでなく、私にも『お腹空いたよ、ご飯ちょうだい』と、足にまとわり付いて泣き続ける。おばあちゃんが寝込んでいても、私がいるというのに、なぜか、この3日は泣きもしなければ、足にまとわり付くこともなかった。寝続けるおばあちゃんも異常なら、ドタバタと家の仕事を片付ける私もまた異常だったのだろう。
ご飯皿の前に座るチビタを見て、慌てて特製ご飯を作り、マットの上に置く。「もうちょっと待っててね。すぐに食べさせてあげるからね」と言いながら。一段落がついて、さあ、ご飯を食べさせてあげようとお皿を覗くと、そのお皿はすでに空。一人で静かに食べ終えていた。
おばあちゃんが、起き出せるようになると、早速、あの独特の大きな上り調子の声が復活した。久しぶりに聞くその声に、おばあちゃんが臥せっていた3日間の静けさを改めて思い、チビタの気遣いに胸が熱くなった。

静かに、世話をかけずに、と気遣ったのがチビタなら、『大丈夫?』と臥せっているおばあちゃんの顔を幾度となく覗き込み、そばを離れなかったのが宮沢さんとぬーちゃんだった。この二匹は、日頃も他の猫が吐いたり、悲鳴をあげたりするたびに、傍に駆け寄っていく。
顔を覗いては、鼻の先やおでこを舐め、足元や枕元で添い寝する二匹は、具合の悪いおばあちゃんにはありがた迷惑だったかもしれないが、それでも、気弱になった心が随分と慰められたことだろう。

ところが、顔を覗きにやってくる宮沢さんを追いかけては、後ろから猫パンチを繰り出すとんでもない猫がいた。トンちゃんだ。何を考えているのか、いないのか、トンちゃんらしいと言えばそれまでだが、これにはおばあちゃんも呆れ果てていた。

でも、猫パンチを繰り出すためとは云え、おばあちゃんの傍にやって来たトンちゃんの方がまだ良かったかもしれない。何しろ、知らんぷりを決め込んでいる猫がいたのだから。それが、日頃はおばあちゃんにベッタリのゴンちゃんとあっては、おばあちゃんの寂しさも一入だったろう。おばあちゃんが居間の椅子に腰掛けていると、どこからともなくやってきては背伸びをして左手を伸ばし、ノックするようにおばあちゃんの肩を叩いて、だっこの催促をするゴンちゃんが、3日間、知らぬ存ぜぬを通していた。良く解釈すれば、人一倍怖がりのゴンちゃんは、おばあちゃんの異常に怯えていたということになるが、本当のところは本人にしかわからない。

ゴンちゃんとおばあちゃんの取り合いをするエセおばあちゃん子のらーちゃんも、これまた知らんぷり。おばあちゃんの膝にこそ乗れなかったが、ニセドと同様、日頃と何一つ変わらない生活をしていた。『エセ』おばあちゃん子なら、こんなものかもしれない。
エリちゃんは、もともと二階をベースに生活していて、めったに一階には降りてこないから、この異常に気付かなくても、無理もないが、果たしてどうだったのだろう。

おばあちゃんがいなければ夜も日も暮れないゴンちゃんの薄情ぶりが、いやでも目立つ3日間だったが、おばあちゃんが起き出すと、また、何ごともなかったかのように、背伸びして左手を伸ばし、『ねえ、おばあちゃん』を繰り返している。