チビタ・パワー(H15.8.17)

6月の末に初めて1階で眠った『チビタ』だったが、そう容易には住民票の移転とはいかないだろうと踏んでいた。1階軍団と『チビタ&らーちゃん』の間には、透明だが通り抜けることのできない壁がある。また、2階で眠るようになるだろう。

ところが、1階軍団が張り巡らすこの透明な壁の存在を、『チビタ』は知っているのか、知らないのか、はたまた知っていても知らぬ振りなのか、何食わぬ顔で、通り抜けてしまった。『チビタ』が眠るおばあちゃん部屋を避けるように、別室で窮屈そうに過ごした1階軍団は、「あ〜あ、良く寝た〜」と寝起きの伸びをする『チビタ』をどのように眺めたのだろうか。『チビタ』の寝床は、すっかり1階に移り、2階は『エリちゃん』の天下となった。

片意地張って壁を張り巡らしても、『チビタ』には通用しない。むしろ自分達が窮屈な思いをするだけだ、と1階軍団も直に気付いた。『チビタ』や『らーちゃん』が1、2階を自由に臆せず行き来するなら、我ら1階軍団も2階に進出すべし、と示し合わせたわけでもあるまいが、2階の『エリちゃん』王国も長くは続かなかった。

2階には冬物の布団を風呂敷で包んだ格好のベッドもある。変わり身の早い『ニセド』が最初の利用者となった。日がな、大きな身体を投げ出し、心地良い眠りをむさぼっている。『エリちゃん』が先に乗っていると、馬乗りになって強引に追い出し、力任せに所有権を主張する。
妙に甘えるかと思うと、しらっと我関せずを決め込む『宮沢さん』も、甘えるモードに入ったと見え、毎夜、necoのベッドで眠るようになった。『エリちゃん』は、ぱぱちゃんのベッド一つになってしまったが、大好きなぱぱちゃんにくっ付いていられるなら、と我慢。その代わりに、日中1階で遊ぶ姿が目につくようになった。

『チビタ』が2階で寝ているころから、「ままちゃんと一緒に寝たい」が嵩じると、我慢できずに2階に上がって来ていたのがnecoっ子の『ぬーちゃん』。だが、最近は『ニセド』は居るは、『宮沢さん』は居るは…人一倍、人を気にする『ぬーちゃん』は、2階で眠るチャンスを作れずにいた。

一昨日、『ぬーちゃん』が黄色い水を吐き続けた。飲まず食わずで吐き続けた。明けた翌朝もほんの少し口にした食べ物が引き金となり、また吐いた。そしてラブリー先生に直行。熱もなし、触診しても異常はなさそうに見える。原因不明の胃炎…吐き気止めの注射をしていただく。丸一日、お腹を干すようにとのことで、『ぬーちゃん』は2階に閉じ込められた。『ぬーちゃん』は、時折、『エリちゃん』のからっぽのご飯皿とお水のお皿を覗いては、ベッドに戻った。夜がやって来た。『ぬーちゃん』は、necoの腕枕で眠る。『エリちゃん』は、いつものように、ぱぱちゃんのベッド。ご指定のドライフードを3粒か4粒食べては満足し、その代わりに夜中も何度となくご飯をねだる『エリちゃん』は、この日もご飯の催促をする。具合が悪いとは云え、さすがにお腹が減った『ぬーちゃん』も、『エリちゃん』と一緒にご飯皿の前に並ぶ。『エリちゃん』だけに食べさせるのは簡単だが、それでは『ぬーちゃん』が可哀想だと、『エリちゃん』にも一晩ご飯を我慢させることにした。『エリちゃん』は、しばらくご飯皿の前で泣いていたが、とうとう諦めてベッドに戻った。

歳のせいか、一晩に何度となくトイレに起きるneco夫婦。普段ならその度に『エリちゃん』も起き出して、ほんの少し入れてもらったご飯を食べるのだが、この夜、『エリちゃん』は2度と再びご飯をねだらなかった。『ぬーちゃん』は、
小さかった頃のようにnecoの指を口に入れては、ふと我に返ったように口を離し、それでもぴったりnecoにくっ付いて眠った。
明けて土曜日。『ぬーちゃん』の顔にやわらかな表情が戻った。何を食べても何を飲んでも吐くことはなかった。ふと、「ストレス」という言葉が頭に浮かんだ。

その夜も、一緒に寝ようね、と『ぬーちゃん』に声を掛けた。これまで2晩続けて2階で寝ることのなかった『ぬーちゃん』も、何を思ったか、声を掛けられるままに、走って2階へ上がった。だが、necoと眠るはずのベッドには、先客があった。夕飯を終えて一眠りしていた『チビタ』がそこに居た。『ぬーちゃん』はそれでもnecoの隣にやって来た。そしてNecoの腕に抱かれるように横になった。ところが、やおら起き出した『チビタ』が、『ぬーちゃん』の前に座り込む。どうなることかと見守る中、結局、『チビタ』は『ぬーちゃん』のお腹を枕にして、また眠ってしまった。いつもなら、さっと身を引いてしまう『ぬーちゃん』だが、この時ばかりは、そのまま動かずにいた。その顔には逡巡の表情が見てとれたが、『ぬーちゃん』は、そのままでいることに決めた。それは『チビタ』の為では決してない。『チビタ』がいても、necoと眠ることを選び取ったのだ。この一つの決断が『ぬーちゃん』を変えてくれれば…

回りの評価、人の目を気にするあまりに、自分の素直な欲求も閉じ込めてしまう『ぬーちゃん』、その対極にいる『チビタ』…2匹寄り添って眠りながら、肌を通して、『チビタ』の悪気のまったくない素直さが、新たな気持ちの持ち用が、『ぬーちゃん』に伝わってくれればと願った。