ニセドの糖尿病闘病記(H24.10.12)
*激痩せニセド
タマちゃんが瀕死の状態から奇跡的に食欲を取り戻し、当面の危機が去ったと安堵していたゴールデンウィーク明け、今度は8.5キロ超のニセドが急激に痩せて来た。8.5キロ超と云っても、肥満というイメージはなく、しっかりした骨格に大きな手足を持つ、体格の良い大猫だ。そのニセドが、わずか10日ほどの間に被毛がパサつき、背骨の目立つみすぼらしい姿になった。食欲は相変わらず旺盛で、残飯整理本部長の本領を発揮し続けているというのに、どうしたことか。歩き方も妙にぎこちない。いつからだろう……大勢いると見逃してしまう。
病院に直行し、まずは体重測定。6.8キロ。短期間に1.7キロ以上減ったことになる。人間に換算すると17キロ減、というところだろうか。続いて血液検査。待合室で結果を待つ私に、先生は「心配していたことが起きました」と前置きをしてから、糖尿病であることを告げた。糖尿病……その瞬間、不謹慎ながら、ふっと緊張がほぐれる思いだった。一緒に暮らしていた祖父が糖尿病だったので、未知の病ではなかった為かもしれない。ガンのような恐ろし気な病気でもなく、慢性腎不全のように治癒の見込みのない病でもなかったからかもしれない。その安堵のため息は、これから始まるエンドレスの治療、闘病を知らないからこそ漏れたものだった。
血糖値470。正常値が64〜152だから上限の3倍以上の数値だ。ニセドはもともと好き嫌いせずに、何でも良く食べる猫だった。だが、この所の食欲は半端ではなかった。それも全て病気の為せる業だったことになる。猫たちが、喜んで食べてさえいれば安心していたイージーな自分が情けない。
嗚呼、これで我が家には、猫の三大成人(猫)病である、慢性腎不全、甲状腺機能亢進症、糖尿病、すべてが揃ってしまった。
*猫の糖尿病って?
ここで、猫の糖尿病について概観しておこう。詳細は、出典のサイトを参照してください。
【糖尿病とは】
糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが絶対的に不足するか、相対的に不足する(インスリンの作用が阻害される)ことによって、
細胞のエネルギー源であるブドウ糖を細胞内に取り込めなくなり、
血液中の糖分が異常に高い状態が続き、尿に糖が捨てられ、
全身に様々な機能障害を起こす病気。
現在200頭に1頭の割合で発症している。
【猫の糖尿病の種類】
猫の糖尿病は、3種に分類される。
<インスリン依存性糖尿病(IDDM)>
インスリン分泌が不十分で、インスリン接種を必要とする糖尿病
<インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)>
インスリン接種を必要とせず、インスリンの働きを阻害する要因を取り除くことにより改善される糖尿病
<耐糖性障害(IGT)>
ホルモン誘発性による糖尿病
猫の糖尿病には一過性糖尿病(潜在性糖尿病)と呼ばれるものもある。これは膵臓にストレスが加わることにより、糖尿病の症状を現すもので、治療にインスリンを必要としない場合と、ある程度の期間インスリンを必要とする場合がある。
猫の糖尿病は、なかなか症状を表に出さずに深く静かに進行していく病気だが、中には急性タイプの糖尿病性ケトアシドーシスも見られる。これは尿中にケトン体という酸性物質が存在することで確認される。ケトアシドーシスは、糖尿病が進行することによっても起こり、緊急の治療を要する。
【糖尿病の症状】(●はニセドに見られた症状)
●多飲多尿
●体重減少(良く食べても)
●被毛粗剛
●脱水
●踵様跛行(踵を着けて歩く歩様異常)
●筋肉虚弱
○元気喪失
○不機嫌・沈鬱
以下は、ケトアシドーシスの症状でもあり、緊急を要する
○食欲不振
○嘔吐
○黄疸
○下痢
○浅速呼吸
【糖尿病の危険因子】(●はニセドに当てはまる因子)
●中年〜高齢猫(>10歳)(ニセド12歳)
●肥満猫(>6.8キロ)(ニセド体重減少前8.5キロ超)
●オス猫(去勢オス猫は1.5倍の糖尿病発症率という報告もある)
○シャム猫、バーニーズ
その他、環境因子として、感染症、膵炎、腫瘍、肝疾患、ストレス等が考えられる。
【猫の糖尿病の特徴】
○後足に神経障害が起こる(踵様跛行)
○合併症が犬より起こりにくい
○白内障・網膜症が起こりにくい
人間の糖尿病に見られる以下の諸症状は、通常起こらない。
○動脈硬化
○ 脳梗塞
○ 心筋梗塞
○ 腎不全
○ 盲目
○ 肢の壊死(→断脚)
【糖尿病の診断方法】
○ 絶食時血糖値(GLU)200mg/dl以上
○ 尿糖・尿中のケトン体の存在確認
猫は一時的な興奮によって血糖値が上昇するため、尿糖も測定。
一過性の興奮の場合、尿糖は出ない。
但し、持続してストレスを受けていた場合、持続的に高血糖と尿 糖が見られる場合がある。
○フルクトサミン測定(FRA:過去1〜3週間の平均血中グルコース濃度)基準値134〜243 μmol/l
フルクトサミンは、採血中の一時的な高血糖によって、数値が影 響されない。
【出典】
*ニセドの症状
ニセドを病院に連れていった直接の要因は、急激な痩せ方だったが、上記『糖尿病の症状』に印をつけたように、それ以外にもニセドは様々な異常を見せていた。多飲多尿は、ある程度の年齢に達した猫ならば多かれ少なかれ見られる症状だから、とさほど気に留めずにいた。被毛のパサ付きや、脱水は体重減少と同時進行だった。歩き方も確かにおかしかった。この時期は、まだ踵を着けて歩いているわけではなかったが、何ともぎこちない歩き様だった。そう云えば、ご飯の催促に2階に集まる集団の中に、ニセドの姿が見えなくなっていたっけ。そう云えば、正座をすることも、香箱を作ることもしなくなり、足を投げ出すように横になってばかりいたっけ。そう云えば、声も変わった。オヤジのダミ声のようで、とても猫の声には聞こえない。そう云えば、そう云えば……。ニセドはもっと前からSOSを送信していたのに、私のアンテナは錆び付いて、ちゃんと受信できずにいたのだ。
急激に体重が減少したニセドの糖尿病は、インスリン依存性糖尿病と診断された(非依存性は 太っていて、一見健康そうに見えるのでHappy糖尿病とも呼ばれる)が、環境因子として膵臓に疾患があるかどうか調べるために、血液を検査機関に送ることになった。そして、ニセドはインスリンの投与量を定めるために、そのまま4日間入院することに。
*自宅療養開始
4日後、退院するニセドを迎えに行った。いよいよ自宅での療養が始まる。食事の管理とインスリンの投与、そして血糖値モニターの3本立てだ。
【食事管理】
食事はヒルズの療法食、m/d缶。体重6キロを維持するには、一日に156g缶を一缶半食べさせなければならない。もし、食い付きが悪いようなら、マグロのフレークを混ぜても良いとのこと。但し、一般のドライフードは避けるように。
困った……。我が家では、気まぐれな11匹のために、ドライフードだけは一日中出しっ放しにしている。療法食を食べるニセドだけ、別室で食べさせたとしても、一日中隔離しておくわけにはいかない。ということは、一定時間でドライフードも片付けることになる。他の猫たちには、決められた時間にしか食べられないことを学んでもらうしかない。
ドライフードを片付けるなど、これまで、はなから無理と思い込んでいたのだが、必要に迫られればあっさり腹は決まるものだ。総じて肥満揃いの我が家にとっては、良い転機だろう。
お盆にニセドのフードボールとm/d缶を載せ、おばあちゃんの部屋へ。『食べたい食べたい病』のニセドは、ぎこちない足取りながら必至で私の後を追う。他の猫たちも参勤交代のようにぞろぞろついて来るが、ニセド以外は立入り禁止だ。ドアを閉めて、おもむろにm/d缶の半分をボールに入れる。さあ、召し上がれ。「ご飯だあー!」とかぶりついたニセドだが、療法食は口に合わないのか、食べっ振りが思わしくない。二口三口は食べたものの、あとは舌先で転がすばかりで、一向に減っていかない。何でも喜んで食べるニセドだから、療法食だけでいけるだろう、と高をくくっていたのだが、とんでもなかった。仕方がない、マグロのフレークを混ぜよう。幸い我が家の猫缶ストックに100%マグロフレークがあった。缶を開けると、ニセドはその匂いに敏感に反応。ボールに入れるのも待てず、スプーンを持った私の手を引き寄せて、猛烈な勢いで食べてしまう。これでは、療法食が残るばかりだ。ニセドの手を振り払いながら、何とか療法食と混ぜ合わせた。ボールのご飯は、あっと言う間に空になり、私の手には、ニセドの爪痕が何本も残った。
ニセドの食事を終えて、ドアを開けると、部屋の前でその他大勢が押し合いへし合いしていた。居間に戻る私の後を再びぞろぞろと付いて来る。そして彼らも漸くご飯にありつくことになる。この光景は朝と晩、これからエンドレスに続くことになるのだろう。
【インシュリン投与】
退院する際、家庭でのインスリン接種の仕方を先生に指導していただいた。
インスリンには様々な種類があるが、ニセドに処方されたインスリンはレベミルだ。この注射液を2倍希釈したものを使う。希釈することにより、0.5単位という微量の調整が可能になる。
注射器はインスリン用を使用。インスリン原液のままなら、一目盛り1単位となるが、2倍希釈された液を使用するので、一目盛りが0.5単位となる。
ニセドの投与量は、1回4目盛り(2単位)、これを朝9時と夜9時の2回打つことになった。
ここで、注射の仕方を書き留めておこう。ネットを見ると、インスリンの注射の仕方に不安を持っておられる方がいらっしゃるようなので、参考にしていただければ、と思う。
【インスリン注射の仕方】
1 バイアル(液の瓶)の天地を静かに2、3回返して注射液を混ぜ合わせる。
2 バイアルの口とをアルコール綿で拭き注射器の針をバイアルに差し込む。
3 注射器に空気が入らないよう、針の頭が液の中にあることを確認し、多めに引き入れる。そのまま針を抜かずに所定の目盛りまで注射液を押し戻す。
4 注射する部分をアルコール綿で消毒する。
5 注射器の頭を手のひらに付け、注射器を親指、人差し指、中指の3本でもつ。
6 左手で皮膚をつまんで持ち上げるとテントのような三角形になり、中程にくぼみができる。ここに針を射し、そのまま手を持ち替えず、手のひらで注射器の頭を押して注射液を注入する。この注射器の持ち方にすると、針を射してから液の注入まで一動作で行うことができ、針の抜けや、曲がりを防ぐことができる。
7 注射器をそっと引き抜いて終了。
8 注射液は冷蔵庫で保管する。
注射は、その都度場所を替えて打つようにする。
注射器は単回使用が原則。使用済みの注射器は、医療廃棄物となるので、きちんと保管し、病院で処理していただくこと。
さて、ニセドだが、慣れない私が針先を確認しながら注射できるよう、首の下と左腰の2カ所、バリカンで毛を刈っていただいた。これで随分、注射がしやすくなった。
注射針の先端は斜めに切れていて、斜めの切断面を上にすると痛みが少なくなるが、注射針が毛針のように細いので、あまり気にしなくてもよさそうだ。
注射自体は、タマの輸液の経験で、臆する事なくできたが、注射液の量を間違えないよう、念には念を入れて確認するようにしている。
【血糖値モニター】
退院の際は、自宅で行う血糖値モニターの仕方も教えていただき、実際に測定してみた。血糖値はニプロの血糖値測定器、フリースタイル フリーダムで計る。人間の場合は、測定器に付属している穿刺器具で指先などから採血するが、猫にはこれは使えない。注射針(テルモ26G)を使って、耳から採血する。猫の耳介(耳殻)には縁にそって血管が走っている。その血管に針をちょんと刺す。予め、ゲンタシンのような油分のある軟膏を薄く塗っておくと、出て来た血液が丸い玉状になり、測定しやすい。針はインスリン注射の時の針と比べると太いので、先端の斜め切断面を上にして刺した方が痛みが少なくてすむ。
測定器はどんどん改良されて、直径1ミリに満たないような血球でも測定できる。針をさす箇所、針を入れる角度や深さによって、思いの外出血してしまうこともあるが、慌てずに測定し、その後、テッシュでしっかり押さえておけばすぐに出血は止まる。採血箇所は、その都度かえるとよい。使用した注射針は医療廃棄物なので、保管して病院に持参し、処理していただく。
ニセドは、1日4回モニターすることになった。am5時、am9時、pm6〜7時、pm9時の4回だ。
夕方も5時に測定できた方が良いのだが、私の仕事の関係で5時は無理。きっちり同じ時間に測定することもできない為、帰宅後すぐ、というアバウトな時間にならざるを得ない。
朝5時と夕方はいずれも食前、朝夕9時の測定は、食事の後でインスリン注射前となる。
と云っても、退院時には注文したニセドの測定器がまだ届いておらず、到着次第、開始ということになった。
インスリンの注射の打ち方、血糖値の計り方を習い、これで退院か、と思ったところで、こわーいお話しが待っていた。低血糖の危険性についてだ。
インスリンが効き過ぎ血糖値が下がり過ぎると、脳が正常に機能できなくなり、様々な症状を引き起こすという。また、血糖値がそれほど低くなくても、血糖値が急激に降下したときに低血糖の症状が現れることもあるそうだ。低血糖は重度になると意識レベルが低下し、昏睡から死に至る可能性もあるとのこと。
4、50年も前のことだが、糖尿病でインスリンを打っていた私の祖父も何度か低血糖を起こしたことがある。出掛ける時は、決まって角砂糖を携帯していた。人間ならば、突然の不調にもある程度自分で対処できるだろうが、相手が猫のニセドでは、私が早い段階で異常をキャッチしなければならない。血糖値モニターはその点でも貴重な情報源となるわけだが、測定器が届かない間は、私の観察眼に頼るしかない。
インスリン治療を始めるに当たって、低血糖については病院で必ず指導があると思うが、ここで概略をまとめておこう。詳細は、出典元を参照してください。
【低血糖について】
<低血糖の原因>
○インスリンの絶対的/相対的過剰
インスリンの量を間違えて多く投与した場合
注射に失敗し、再度注射して、結果過剰となってしまった場合
食事を食べなかったり、日頃より運動量が多かった場合
自分でインスリンを分泌した場合
○急激な血糖値の降下
<血糖値の目安>
70mg/dlを下回ると低血糖症状を起こしやすくなる。
但し、高血糖状態が続いていた場合や、急激に血糖値が下がった場合は、もっと高い値でも低血糖を起こす可能性がある。
注意:自宅での血糖値測定器、ニプロ フリーダム フリーライフ は、±20%の誤差がある。数値だけに頼らず、注意深く観察することが大切。
<低血糖の症状>
軽度:
異常にご飯を欲しがる、逆に食事に興味を示さない、
瞳孔の拡大、目がよく見えない様子、ふるえ
中度:
落ち着きがない、怒りっぽい、奇妙な鳴き方、
いつもと違う場所に隠れる、呼びかけに反応しない、
眠る、ふらついて歩く、歩けない、脱力
重度:
全身の痙攣、昏睡
<低血糖の対処法>
1 大好きなフードを与えてみる。
2 食べなければブドウ糖を針を外した注射器で飲ませる。(ブドウ糖がない場合は、コーンシロップや蜂蜜、それもない場合は砂糖を温湯で2、3倍に希釈したものを、口の中の頬の部分に塗りつける。無理に飲ませないこと)
3 動物病院に連絡。指示に従う。
低血糖には、迅速な処置が必要。何も対処せずに動物病院に連れていくと、途中で死亡する可能性もあるので、自宅で上記のような処置をしてから、病院に連絡し、指示に従うことが肝要。
ブドウ糖は病院で用意していただけるので、いざという時にすぐに取り出せるよう、準備しておき、出掛ける時は携行する。
【出典 】
インスリンを投与している場合、一度は低血糖に陥るものと考えていた方が良いようだ。ニセドもインスリン液、インスリン用注射器と共に、ブドウ糖と針のない注射器をいただいて、退院となった。
*いきなり低血糖?
退院して2日目の朝、どことなくニセドの元気がない。食事も遅々として進まず、動きも鈍い。いきなり低血糖???まだ測定器がないので、血糖値を計ることもできず、いただいたブドウ糖を10cc飲ませて、先生に連絡した。9:00のインスリン投与はせずに、病院に連れてくるようにとのこと。ニセドはそのまま入院となった。
結果から言うと、ニセドの不調は低血糖の逆、高血糖に依るものだった。血糖値をモニターしながら、適正なインスリン量を決めるために、ニセドは再度4日間入院することになった。
インスリン量を決めるって、そんなに大変なのかなあ。そんな思いをふと知人に漏らしたところ、何と、その人の愛猫も糖尿病とのこと。血糖値が600を越えていたのだが、インスリン投与を続け、今は100前後に落ち着いているそうだ。食事はヒルズのw/d缶オンリー。
「血糖値がコントロールできるまでに、どれくらいかかった?」
返ってきた答えは、何と1年だった。
そうか、そんな長期戦なんだぁ。
ようやく、糖尿病の何たるかがおぼろげに見え始めた。
*自宅療養本格開始
2度目の入院を終えて帰宅したニセドは、大分元気を取り戻したように見える。
膵臓の検査結果も異常なしと判り、治療は当初の予定通り、インスリン投与と食事の管理となる。この時、ニセドの体重は6.5キロで更に300g落ちた。体重の減少は糖尿病症状が進行している一つのバロメータだ。食事の内容と量を一定にして、体重の増減を見ていかなければならない。
ニセドの血糖値測定器も届き、一日4回の測定が始まる。測定結果はきちんと記録し、週に一回の通院時と間に1回電話で先生に報告することになった。
朝晩のインスリン投与の前には、血糖値を計るので、前回のような誤った判断は避けられそうだ。もちろん、低血糖の危険を常時頭に置き、観察を怠ってはならないのだが。
退院後、初めて取った血糖値のデータは食前143と食後186。先生の指示通りインスリン5目盛(2.5単位)を投与していけば、これが徐々に下がってくるもの、と思っていた。だが、予想に反して、数値は180から200台にのり、僅かの間に300を超えていった。
一週間後、投与量を6目盛(3単位)に増量した。今度こそは、と期待をこめて血糖値を測定するが、その都度、期待は裏切られた。稀に200を切ることはあっても、250〜350の間を行ったり来たりが定番となった。
6目盛(3単位)にして10日後、インスリンを更に増量。7目盛(3.5単位)を投与することになった。今度こそ……。さすがに、300台の数値が消え始め、100台もぱらぱらと見られるようになる。いい感じ、この調子!と気を良くしたものの、一週間後には300台が復活。
私が血糖値データに一喜一憂している間、ニセドの後足の状態はどんどん悪化していった。歩く時の踵の高さはどんどん低くなり、蹴り出した足は外側にすべってしまう。後足に力が入らない分、前足で体を引っ張るようにして歩く。40cm程の高さの椅子に乗ることもできなくなり、踏み台を置くことにした。
インスリン量を7目盛(3.5単位)にして3週間後、8目盛(4単位)に増量。体重は6.3キロ。200g減だ。それでも、血糖値は200台で、思うような薬効が得られない。
10日後、9目盛(4.5単位)に増量。100台の数字もちらほら見られるようになったものの、300超えもある。
一週間後10目盛(5単位)に。
*五里霧中
ニセドに投与できるインスリン量の限界が気になり始める。先生に伺ったところ、体重6キロの猫の場合、9単位(18目盛)まで投与できるそうだ。まだ増量の余地はある。だが、当初の倍にまで増量しても薬効の手応えがないことに、心配と焦りが混じり合い、気持ちがざわついて落ち着かない。まさに五里霧中、自分の居場所も判らず、向かうべき方向さえつかめない、そんな気分だ。
血糖値のコントロールがつくまで、半年、一年という単位で時間がかかることは頭では判っていても、目に見えて悪化するニセドの後足は、私の焦りに拍車を掛ける。ニセドが食事をする部屋まで居間から5mほどだが、その5mを行くのに、今では途中3回も倒れ込むようになった。後足で踏ん張れないために、ウンチをする時も猫砂の上に座り込んでしまう。水も横になったまま頭だけ起こして飲む。自分が思うように動けないために、外の猫が近くに来るだけで、「ハァーッ」と威嚇するようになった。猫たちも、ニセドの異常には気づいているようで、威嚇されても手出しはせず離れて行ってくれるので難を逃れているが、ニセドは、どんなに神経を使っていることか、と不憫になる。
この状況を先生に伝え、インスリン増量のタイミングを早めていただくことになった。10目盛にして4日後、11目盛(5.5単位)に、その一週間後、12目盛(6単位)にそれぞれ増量。そして漸く……
(インスリン治療を始められた方、療養中の方のご参考になれば、とニセドの血糖値データの推移を掲載します。)
*下がり始めた血糖値
インスリン量を12目盛(6単位)にした翌日、327という数字に、がっくり気落ちしていたのだが、3日目の朝、今度は目をこすっては何回も見直すような数字が現れた。44……低血糖を心配しなければならないような数字だが、ニセドに異常は見られない。食事を済ませ、インスリン投与前には119となり、いつも通りインスリンを投与。この日を境に、血糖値は降下基調となり、一週間後には2桁の数字が並ぶようになった。
12目盛(6単位)にして2週間後、11目盛(5.5単位)に減量。それでも血糖値は上昇せず、3日後の朝には30という低い数字となり、急遽10目盛(5単位)に減量。その日の夕方も41と低く、夜は8目盛(4単位)に。
このインスリン量の調整は、当然のことながら先生の指示に依るもので、この日は、夜中12時にも測定して先生に連絡。1日に3回、先生とホットラインを繋いだ。翌朝の数字は48。幸い、ニセドは一度も低血糖症状を見せなかったが、インスリン量は4目盛(2単位)まで一気に下げることになった。
その翌日の夜から一転、血糖値は急上昇を始め、翌朝は4目盛(2単位)を追加投与し、夜は8目盛(4単位)に増量。すると、翌朝は再び2桁となり、インスリンも6目盛(3単位)に減量。2日後5目盛(2.5単位)に減量。
この慌ただしさは、血糖値が降下していくときの危険性を物語ると同時に、先生の親身のサポートの証でもある。血糖値が50〜150の間で推移するようになった頃、先生が夏休みで6日間海外に行かれることになった。極端に低い数字もなくなり、比較的安定していたが、先生は留守中に異常があった場合に駆け込む病院を紹介してくださり、何と出発の空港からも電話をくださった。本当にありがたいことだった。
先生が戻られ、インスリンは4目盛(2単位)に減量。10日後には常時2桁の数字となり、その10日後、3目盛(1.5単位)に減量し、現在に至っている。来週には2目盛(1単位)にするかもしれないとのことだ。
一時12目盛(6単位)投与していたものが、今では四分の一の量となった。血糖値が降下する要因としては、インスリンに拮抗する物質の分泌が抑えられたことと、自らインスリンを分泌しはじめたことの2つが考えられるとのこと。
猫の場合、インスリンを分泌し始めることも稀にあるようで、この場合、投与するインスリンをゼロにしても、血糖値が上がらずに済む。ただし、再発の可能性は常にあるようだ。
果たして、ニセドはインスリンを切ることができるのだろうか。
*下がり始めた血糖値
ニセドの体重は6.2キロで下げ止まり、この2カ月6.2〜6.3キロで安定している。
血糖値がコントロールできずにいた2ヶ月の間に、どんどん麻痺が進んでいった後足も、ひとたび血糖値が降下を始めると、目に見えて快復してきた。
まず、食事部屋までの5mの廊下を倒れることなく歩くようになった。その速度も次第に早くなり、私に遅れず歩けたと思ったら、すぐに追い越すようになった。ウンチも後足で立ってできるようになった。やがて食事の催促に、2階まで上ってくるようになり、度重なる採血で痛がゆい耳を後足で掻くようになった。ジャンプはまだできず、歩き方も今ひとつ、といったところだが、踵は随分上がるようになったし、いっとき皮だけになってしまった太腿にもだいぶ筋肉が戻った。
日に日に足が利かなくなっていった時、ニセドはどんな思いでいたのだろうか。
目に翳りを見せず、できることをできる範囲で無心に続けてきたニセドが神々しく思われる。
糖尿病は難しい病だ。我が家には、糖尿病予備軍のような肥満猫がまだまだいる。ニセドの食事療法のお陰で常時ドライフードを出しておくことがなくなったことで、少しずつでもシェイプアップできれば、と願っている。
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