平成23年正月猫模様(H23.1.20) このお正月を共に迎えたneco家の猫たちは10匹。 相変わらず、宮沢さんを中心に場所取りの小競り合いが絶えずにいる。母亡き後、猫たちだけで日中を過ごすようになったが、その間に取っ組み合いのケンカが勃発しているのではないか、昨年一年間、気が気ではなかった。幸い、トンちゃんのものと思われる毛が廊下に散乱していたのは1回きりで、更に運の良いことに、以前のように、縫合しなければならないような傷は負わずに済んだ。そんな結果オーライは何度も期待できるわけではない。未然に防ぐことができれば、それに越したことはない。朝の気配、特に宮沢さんの腹の虫の居所が悪そうな時には、宮沢さんにエリザベス・カラーを付けて出掛けることにした。このハンディがあれば、おおよそのケンカは防げるはずだ。最初は宮沢さんもさして嫌がらず、良いアイディアと思われたが、度重なるうちに、さずがの宮沢さんもエリザベス・カラーを目にした途端に逃げ惑うようになり、強引に付けると食べたものを吐くなど、神経症のような症状を見せるようになった。以来、怪しいと思われるときは、宮沢さんを、折り合いの良いシマやモナコと一緒に、2階の1室に閉じ込めて家を出るようにしている。 宮沢さんの攻撃の対象は、ニセドとトンちゃんだが、ニセドは、数年前に体中を縫合するようなケガを負って以来、君子危うきに近寄らず、逃げるが勝ち、を体得した。宮沢さんに追われると、猛烈な勢いでどこまでもどこまでも逃げる。逃げ通す。お陰で、宮沢さんも戦意喪失。事なきを得ている。人一倍大きな体で必死に逃げる姿は、滑稽でもあるが、長男の甚六を地で行くニセドには似合っているのかもしれない。
一方のトンちゃんは、宮沢さんとのケンカで大きなケガを繰り返しているというのに、一向に学習をしない。ニセドのように逃げれば良いものを、変なところで男気を出す。取っ組み合えば一方的にやられるだけなのに、売られたケンカは買ってしまう。時には自らケンカを売ってしまう。
5匹の中で、一番変化があったのは、ぬーちゃんだ。9キロあった体重が、昨年秋には7.5キロになった。今はおそらく7キロ前後だろう。人間の体重にすれば20キロ減ということになる。もともと体の割にすっきりとしていた顔も更に一回り小さくなり、背中をなでると背骨の凹凸がはっきりと判る。大きなお腹は萎み、伸び切った皮がだらりと垂れ下がっている。急な変化に、心配もしたが、本人は体調すこぶる良ろしいらしく、これまで体重が邪魔をして飛び乗れなかった、飛び乗ろうともしなかった場所に上ってみたり、走ってみたり、と運動量が俄然増えた。食欲も旺盛だが、リバウンドの兆候は見えない。
5匹兄弟の紅一点、エリちゃんは、今の家に越してから、私たちの寝室の中だけで暮らしている。前の家では、男兄弟には追い回され、トイレに入っている無防備な時にコエリとレオナに波状攻撃をされ、決して好戦的ではないエリちゃんは、寄るな、触るな、と始終悲鳴を上げていた。引っ越しの少し前、私の目の前で、キッチンのど真ん中にかがみ、溜め込んだおしっこを全部放出。私は、エリちゃんを抱き上げて、ひたすら謝った。エリちゃんを一人にすること、それが唯一の解決策だった。
会社の外猫さん、ズレータの兄弟で、我が家に保護された4匹も今年6歳となる。人間年齢でアラフォーだ。ロッキー家の5匹がそれぞれ個性的なら、こちら4匹もまた個性的。同じ腹の兄弟で、こんなにも違うものかと感心するのだが、それでもロッキー家の人間好きに対して、この4匹は猫好き、と血縁によって大別される。猫好きのお陰で、先住猫とのトラブルは皆無。4匹の中でもシマは別名『ひっつき』と言われる程、誰かしらにひっついていないと夜も日も暮れない。シマのひっつきに一番悩まされているのは宮沢さんだ。誰しも慕われて悪い気はしないが、度を越せば辟易とする。だからと云って邪険に扱うわけにもいかない。宮沢さんが気の毒に思うことも度々だ。寒いこの時期、猫ベッドはエアコンの温風がふんわり下りてくるベストエリアに並べてあるが、宮沢さんがベッドに横になると、シマは8キロ超の立派すぎる体を強引にねじ込んで来る。隣のベッドが空いていようが関係ない。宮沢さんが、帰宅した私たちを玄関で出迎え、頭を私の足に擦り付けていれば、その間に自分の頭を突っ込む……という具合だ。一向に独り立ちしないアラフォー……困ったものだ。
レオナはかなり前から『レオジ』と呼ばれている。レオジに特別な意味があるわけではない。もっぱら音の響きによるものだ。レオジ……皆さんはどんな印象を持たれるだろうか。軽やかに舞うような姿を想像する方は、まずいないのではないだろうか。グレーの毛色から、子猫の時はロシアンブルーが掛かっているのかもしれない、と思ったのだが、どんどん膨らむ脇腹を見ながら、シャルトリュー、ブリティッシュ・ブルーと見解を訂正していった。顔は、日本猫の愛くるしさそのままだから、何とも云えないコントラストだ。ロッキー家の為にドライフードはシニア向けを常時3種類置いてあるのだが、「あたしには若者向けのフードを頂戴!」とレオジは毎度せがむ。お父さんはせがまれるままに、別の場所に若者向けフードを用意するが、それが嬉しいのか、レオジはお父さんの足元で、サルサを踊るように回り続ける。若者向きのフードが目の前に置かれてもサルサは止まらず、こともあろうにぬーちゃんが漁父の利を得ることになる。そうこうする内に、若者向けフードコーナーには1匹、2匹、3匹と集まり、慌てたレオジは4番手か5番手でかろうじて口にすることができる。それでもレオジはたっぷりとお腹に脂肪を付け、今では両手を揃えて座ることさえできないらしい。手を7、8センチ離して座る、締まりのない正座姿勢をneco家では『レオジ座り』と命名した。『レオジ座り』は似た体型の面々に広がり、今ではニセドとシマもレオジ座りを採用している。
ズレータを含め5匹兄弟の長女と思われるコエリちゃんは、極端に警戒心が強く、風邪を引いて病院へ連れて行ったときに診療を断られたという経験の持ち主だ。引っ越しの時も、最後まで抵抗し、オーブンミトンを嵌めた手で覚悟して捕まえたのだが、案の定手にはいくつも穴が開いた。コエリちゃんを撫でるなど、夢のまた夢……と思っていたのだが、その夢がついに叶った。もっとも条件付きではあるのだが。コエリちゃんは、このところ、エアコンの温風が一番心地よい、アームチェアの背もたれの上を占有している。そこに体を投げ出していると、身も心もとろけてくるらしい。胸の奥底に氷になって隠されていた「甘えたい」という気持ちが溶け出してきて、誰かが側を通る度に「撫でて、撫でて」と体全体でアピールする。一旦撫で始めると、5分は解放してもらえない。最近では甘噛みも覚えた。おばあちゃんは、天国から「信じられない」という面持ちで、この光景を眺めていることだろう。だが、油断は禁物。撫で方が悪いか、撫でる箇所を間違えたか、あるいは度が過ぎたか、理由は判らないが、突然猫パンチが飛んでくる。つい一週間前、私は右頬に猫パンチを往復で喰らい、流血騒ぎとなった。血を拭ったティッシュを見せると、さすがにコエリちゃんもすまなそうな顔をしていたが、「もっと撫でて」と言っている間に切り上げるのが、血を見ないコツなのだろう。コエリちゃんを撫でられるのは、お気に入りの椅子の背もたれの上か、サイドボードの上、と今のところ2カ所だけだが、6年近くかかって漸くコエリちゃんと体温の交換ができるようになった。
兄弟の残る一匹、モナコは、外猫として会社ビルに残ることを選んだズレータと瓜二つ。外見もそっくりなら、ズレているところもそっくりだ。比較的一人で行動することが多いもの、微妙なズレが原因なのかもしれない。実は、その一人での行動が問題含みで、「あたし、悪戯なんてしません」という顔をしていながら、家の家具についた爪痕の90%強はモナコのものだ。前の家に置いてあった革張りのアームチェアがモナコによって全面マジックテープのようになってしまった為、引っ越しの折に購入したソファもアームチェアも合皮製を選んだのだが、その甲斐なく、1カ月後には布製のカバーを掛けなければならない状態になった。布製のカバーは、外の猫たちが上ったり、宙づりになったりして、今や糸くずの束と化しているが、モナコはカバーをくぐって本体の合皮をマジックテープ状にする作業を続けている。「こらっ!」と大声を上げると、すぐに逃げはするのだが、逃げるコースは決まっているし、逃げっぷりも嬉々として見える。モナコにとってはまさにゲーム感覚なのかもしれない。
Neco家の最年少、クーちゃんも今年4歳となる。30歳、而立である。人間も含めてneco家で孔子様の語る年齢に相応しい存在は、クーちゃん一人だろう。
お三が日、会社の外猫さん4匹の給食当番で事務所に通った。今では、ステーキ屋さんに加えて、ビルの管理人さんも給食のお手伝いをしてくださるようになり、休み中の給食当番もずいぶん減った。ありがたいことだ。 ホワイトソックス、タマ、ズレータの3匹は、離れることなく共に暮らして6年になる。ズレータとタマは従兄弟同士、ホワイトソックスは叔父に当たる。血縁とは云え、男3匹がこれほど長い間、一緒にいるのは珍しいのではないだろうか。 この4匹が一つの家族のようにまとまっていられるのも、ホワイトソックスの存在があってのことだろう。もう随分前のことになるが、とっておきのご馳走をもって行った時のこと、いつもの場所にはホワイトソックス一匹しか居なかった。さっそく一切れホワイトソックスに渡すと、あっという間に平らげた。私の手にはもっとたくさんのご馳走が握られている。普通なら「もっとくれーっ」とせがむところだが、ホワイトソックスはやおら皆の根城の方に向きを変えて、大きな声でないた。「おーい、旨いものがあるぞー。早く出て来いよ」そう叫んだのだろう。タマ、ズレータ、コアネが寝ぼけ眼で次々に現れ、限りあるご馳走を4匹で分け合うことになったのだ。
タマは、4匹の中で、ご飯を食べた後でも撫でさせてくれる唯一の猫だ。今では、管理人さんや上階のマンションの住人にも可愛がられている。だっこはあまり好きではないが、かがんだ膝に乗せてやると、私と同じ方向を向いて香箱を作り、静かにのどを鳴らす。このひとときがタマのお気に入りらしく、決して自分から下りようとはしない。タマの体温を腿に感じ、穏やかなごろごろの響きを胸に受け止めながら、タマと一緒に朝の空を眺めるのは、私にとっても至福の時だが、悲しいかな、山と積まれた仕事が待っている。気の済むまで、こうしてはいられない。タマを膝から下ろす時は本当に切ない。
ズレータは、相変わらずマイペース。皆と一緒に食べるご飯も、ドライフードには見向きもせず、猫缶だけをがっつく。人一倍早く食べて、誰よりもたくさん缶詰をもらおうとやっきになる。その鼻息の荒さに負けそうになるが、ドライフードも一生懸命食べるホワイトソックスやタマが割を喰わないよう、公平に配分する。満足いくまで缶詰が食べられないズレータは、ルーフバルコニー伝いに2階の事務所にやって来ては、お気に入りのドライフードを食べて行く。一日に4回も5回もやって来る。この事務所のことは、もう隅々まで知り尽くしているのだが、自分が入って来るバルコニーのドアを閉めるとパニックになる。だから、ズレータが事務所に居る間中、ドアは開け放しておかねばならず、ドアの近くにデスクのある社員さんは、ズレータが入って来ると、ダウンジャケットとオーバーパンツを着込んで、吹き抜ける寒風を凌がなければならない。本当に申し訳ないことだ。暖房の効いた事務所は、ズレータにとっても心地良かろうと思うのだが、どんなに毎日通おうとも、ここはズレータの陣地にはならないらしい。慢性鼻炎の鼻をずこずこ言わせながら、そそくさと帰っていく姿に、一抹の寂しさを感じながらも、野性の逞しさが眩しく見える。
コアネちゃんを群れから追い払い、紅一点となったあっちゃんは、ズレータ以上にマイペースだ。雨の日や、極端に寒い朝は、ご飯をパスして朝寝を決め込んでいる。食べ物の好き嫌いもひどく、ドライフードであれ、缶詰であれ、気に入らなければ鼻もひっかけない。同じフードでも、お腹を空かせている時は夢中で食べるのだから、食べないからと云って、心配するのはやめにした。あっちゃんは、黒目が細く、きつい顔立ちをしていて、お世辞にも愛くるしいとは言えないが、均整の取れた体つきと真っ直ぐな尻尾が魅力的なのか、マンション住人や通りがかりの人の携帯カメラが向けられることが多い。カメラマンの太田威重さんによって、サンケイ・エクスプレスの1ページに載せていただいたのもあっちゃんだったっけ。
それにしても、コアネちゃんは、今、どこでどうしているのだろう。外猫たちは餌場を複数確保していると云う。心安く暮らせる場所で、つつが無く彼女の時間を刻んでいると信じよう。外猫さんとは、まさに一期一会。それだけに、毎朝、顔を合わせるたびに、感謝でいっぱいになる。 2011年睦月、内猫、外猫総勢14匹は、賑やかに私の暮らしを支えてくれている。今回、それぞれの猫たちの写真を探したのだが、昨年撮った写真の少なさに唖然とした。昨年一年、母のいない暮らしに追われ、ただただ夢中で過ごしてきたようだ。猫たちにカメラを向ける余裕すらなかったことにも、気づかないできた。今年は、もう少し、心身ともにゆとりをもって暮らしたいと思う。大事な猫たちのためにも。
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