遠い面影 (H14.6.28) 骨と皮で、体長の長い骨組みだけがかつての豊かで威厳のある姿を忍ばせるばかりとなった『ファイト』が、また2回り小さくなった。頭まで骨張り、もうこれ以上そぎ落とすものは残っていないと思ってからの、更なる痩せ細りだ。冬の間、寒さには勝てずに、我が物顔にやりたい放題のロッキー弟軍団5匹に囲まれながらも、不承不承家にいた『ファイト』だが、日が長くなるに比例して再び外で過ごす時間が長くなった。夏至を過ぎた今では、気まぐれにふらりと家にやってきては、相変わらずの5匹の挙動に、わずか2、3分で外に帰るのがせいぜいだ。『ロッキーママ』も同様で、ひとたび家に踏み入るや、5匹が代わる代わる飛びかかる有り様で、『ママ』は「ハーッ、ハーッ」と歯を剥き出しながらも、小さくこわばり、部屋の隅を忍び足で歩く。「去る者日々にうとし」と言うが、「去る者」の居場所は日々なくなり、今では玄関先に2つ並べられた大型犬用のトラベルキャリーが『ファイト』と『ロッキーママ』の住まいとなっている。梅雨空に散歩もままならず、いつ覗いても2匹はそれぞれの住まいで横になっている。もっとも時折、住まい交換をしているのだが…。 2年前のワクチン接種の時、すでに激痩だった『ファイト』を診たラブリーの先生から、いつ逝ってもおかしくないので、覚悟だけはしておくようにと言われていた。腎機能は低下しているものの、特に痩せる原因があるわけではなく、食欲もそこそこで、結果、猫エイズウィルスによるものと思われた。猛暑だった昨年の夏、室内に入れて入れても出ていってしまう『ファイト』の後ろ姿を見送りながら、この骨に食い込むような陽射しには耐えられないだろうと心のどこかで本当に覚悟をした。好んで座り込むサツキの下も決して涼しくはなく、ゴルフ用の紫外線除けの傘をパラソルのように差しかけてあげるしかなかった。 昨晩、寝付く時に『ファイト』の17年を振り返っていたせいか、思いも寄らない面影が脳裏に浮かんだ。夢の中だったのかどうか定かではないが、幼い時に飼っていた『メリー』というシェパード系の雑種犬の面影だ。『メリー』とは随分長いこと一緒に暮らした。お客様の靴を食べてしまって大騒ぎになった、キャッチボールもした…最期は人知れず姿を消してしまった。その『メリー』の顔の模様の一つ一つ、目の表情、歯の形、尻尾の毛並み…この30年ついぞ思い出したことがない『メリー』のこまかなことの一つ一つが鮮やかに浮かび、手には固めの毛の感触が蘇った。 『ファイト』の住まいの上に、『お友だち』が日がな座っている。まるで、『ファイト』を守っているように。 |