白と茶トラの比較猫類学 (H14.4.13)

 猫は種類によって性格が違うと、物の本には書かれている。道端の日本猫しか飼ったことのないNecoは、それを検証することができずにいるが、同じ日本猫でも個体によって性格は千差万別、十人十色。人間と変わるところはない。それでも、気質を類型で大別することはできそうだ。人間であれ、猫であれ、性格を形作るのは血か環境か、なかなか線引きは難しいが、我が家のロッキー一族を見てみると、独り長く放浪を続けた『らーちゃん』も含め、全員ロッキーママの超根アカの性格をしっかり受け継いでいる。その9匹の行動パターンをさらに観察してみると、毛色によって性格が二分できるような気がしてきた。ロッキー一族を毛色で分けると、「茶トラ一部白」が3匹、「白に茶トラのぶち」が2匹、「白、かすかに茶トラ模様」1匹、「白に黒トラのぶち」1匹、「三毛」2匹となる。

 先日、『隣の宮沢さん』を1階の住人のもとに連れていった。日中起こしておくように、というラブリー先生の指示もあり、猫に対しては怯えることを知らないどころか、誰彼かまわず『す〜りすり』する『隣の宮沢さん』の性格もあってのチャレンジだった。『ファイト』と『ロッキーママ』は外出中、『エリちゃん』は2階に行っており、下にいたのは残るロッキーの弟5匹。皆、お昼寝中だった。ただならぬ気配に一番に起き出してきたのは、「白、かすかに茶トラ模様」の『本家宮沢さん』。寝ぼけ眼の『本家』に『分家』はさっそく『す〜りすり』。『本家』はびっくり飛び退いたが、興味津々。『分家』がよそ見をしている間に、そろ〜り、そろり、近づいていく。『分家』が振り向くと、ふいを突かれた『本家』は「ハーッ」と威嚇するが、『分家』はぴくりともしない。猫パンチを繰り出されても、何くわぬ顔をしている。「こんなはずじゃあ」と怪訝そうな『本家』。つかず離れず、何度かこれを繰り返すうちに、元の場所に座り込んでしまった。近くにいた「白に黒トラのぶち」の巨漢、『ぬーちゃん』は、そんな両宮沢の様子を眺めていたが、『分家』が方向転換して『ぬーちゃん』に『す〜りすり』を始めると、巨体を素早く移動させてそれをかわす。かわすけれども、逃げるわけではない。「ハーッ」と威嚇することもない。両宮沢と『ぬーちゃん』は、1.5mずつ離れたところで落ち着いた。
 3匹の「茶トラ一部白」は、隣の部屋で身をひそめている。隣室の気配に、昼寝からはとうに醒め、息をこらして様子を伺っている。微動だにしないのを見届けて、私は『分家』のお皿を取りに2階に上がった。すぐに取って返してみると、居間では、3匹の「茶トラ一部白」の中でも一番茶トラの多い『ニセド』が威圧的なポーズで『分家』を睨み付けている。その一触即発の空気に、これはまずいと感じた私は、『分家』を抱き上げ、そそくさと2階へ連れ戻した。再び、居間に戻ると、『ニセド』が近づく弟たちに威嚇の「ハーッ」を連発している。物凄い形相。表情は凍り付き、からだはこわばり、手を差し出すのも怖いほどだ。弟たちは、そんな様子はおかまいなしに、いつものように『ニセド』に近寄っていくが、その度に、恐ろしい迫力の「ハーッ」を浴びせかけられ、猫パンチを食らう。緊張が極限に達し頭の回路がショートして、判断がつかなくなってしまったのだろうか。視界から消えた『分家』を探すわけでもなく、そばにいる者すべてが敵に見えるらしい。私が『分家』を残して居間を出ていたのは、わずか1分か2分。それなのに、この有り様だ。何とか『ニセド』を正気に戻さなくては。大好きなチュンチュンを投げてあげても、知らん顔。それでいて、チュンチュンを取りにいった『ゴンちゃん』には「ハーッ」。好物の猫缶にも見向きもせず、抱き上げても、放せ、放せの大暴れ。私はなす術なく座り込んだ。時が経つのを待つしかない。3時間が過ぎ、『ニセド』にようやく表情が戻った。

 同じ「ハーッ」でも『本家』の「ハーッ」と『ニセド』の「ハーッ」は全く異質だ。『本家』の「ハーッ」は笑って見ていられるが、『ニセド』の「ハーッ」はそうはいかない。『本家』の「ハーッ」は、交わっていくきっかけを探っていくが、『ニセド』の「ハーッ」は交わりを拒絶する。『らーちゃん』の時は、1対6の1である『らーちゃん』自身が怯える性格だったために、『本家』は図に乗り、『ニセド』の「ハーッ」にも緊張感がなかった。今度の『分家』は物おじせず、『す〜りすり』を決め込む分、『ニセド』には怖かったのだろう。何かにつけ、2階の部屋に入りたがる『トンちゃん』も、2階で『分家』の姿を垣間見たときから、階段の最上段一段を残してそれ以上進もうとしなくなった。怖がり『ゴンちゃん』は論外で、ひたすら逃げ続ける。恐る恐る近寄るなどということは断じてしない。
 そう言えば、お外の猫に対しても、『ニセド』は威嚇の態度に出る。「長男だから、みんなを守ろうとしてるのね」などと笑いながら見ていたものだが、こして見ると、威嚇する側の『ニセド』が怯え、他所ものを排除しているのだろう。身内と他所ものの間にくっきりと線引きをしてしまうのだ。
 組み合わせは同じでも「白に茶トラのぶち」の『ロッキー』は、外に出してもらった途端に『お友だち』をお家に連れてきたし、『らーちゃん』は今、『分家』を抱いて汚れた顔をなめてあげている。そこには身内と他所ものの区別などどこにもない。
 白と茶トラの分量が性格を決めるのだろうか。
 ちなみに三毛は近づいては逃げ、逃げては近づき、心の距離を縮めている。