ネコのヤン シリーズの第6作。
バザールの外れで一匹の猫が自分で編んだ籠を売っていた。一向に売れる気配の無いその店で、ヤンは籠を一つ買う。しばらくして、再びバザールを訪れたヤンは、籠売りの猫の店を覗いた。どう見ても売れている形跡がない。立ち止まったヤンに、「イラッシャイ よくできた籠だよ」と声を掛けたのは、足の悪い灰色ネズミ。「とてもいい籠」と目の不自由なシジュウカラ。他にも痩せこけた子猫、具合の悪そうなカラス、目の見えないハトが口々に籠を売ろうと声を掛ける。
ある日、ヤンはピロシキをおみやげに籠売りの猫のアパートを訪ねた。店にいた灰色ネズミやハトやシジュウカラ、カラス、子猫たちがヤンを出迎えた。おみやげのピロシキの入った籠を渡すとあっと言う間に籠はからっぽ。当の籠売りの猫は、部屋の薄暗い隅っこで一人せっせと籠を編んでいた。ヤンはカラスが羽の下にくすねたピロシキを取り返し籠売りの猫に渡す。
早い冬がやってきた。雪の合間にバザールに出かけたヤンは、籠売りの猫の店を訪ねたが、店も、猫や取り巻きの姿もなかった。アパートに行ってみると灰色ネズミが一人残っていた。聞けば籠売りの猫は急病で死んでしまったという。そしてみんな出ていったと。
時が経ち、初夏のある日、バザールを歩くヤンの耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。「イラッシャイ よくできた壺だよ」「とってもいい壺」…あの取り巻きの連中が全員皿売りの店にいた。
著者の母の死と重ね合わせて書き下ろされた本書は、どうすることもできない物悲しさと、生ある者のしたたかさ、強さを同時に伝えてくれる。異国情緒溢れるセッティングもストーリーに彩りを添えている。
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