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ゆきの山荘の惨劇
猫探偵正太郎登場

平成12年10月25日 初版発行
平成18年11月10日 8版発行
著者:柴田よしき
発行所:株式会角川書店
ISBN4-04-342805-7
C0193

猫の正太郎は、結婚式に招待されて、柚木野山荘という山奥の別荘に招待される。結婚式には奇妙なロケーションだ。というのも、自分の作品を盗作された新婦が、その手引きをしたのが新郎ではないか、という疑念を持ち、結婚式の前に一芝居打って、白黒を見きわめたいと思ったからだ。
ところが、土砂崩れ、毒死、転落死、と思いもよらない事件が次々に起こる。孤立した山荘での一連の惨劇を、居合わせた正太郎と旧友の犬サスケ、美しいライラック・ポイントのトマシーナが解明していく。

副題にある通り、正太郎が事件解決に一役かう『猫探偵正太郎』シリーズの第一作である。第一人称、『俺』は正太郎。ストーリーは正太郎の目を通して綴られる。といっても、猫を擬人化するわけでなく、猫だからこそできうることと、猫ゆえの限界とをきちんとわきまえた、細部までよく練られた構成になっている。一緒に行動する犬のサスケとの、動物としての能力の差異にも気が配られ、さすが犬と猫の両方を愛する柴田女史、と関心させられる。
ミステリーとしても十分に読み応えがある。目を覆いたくなるような描写や、過度な緊張も、正太郎たちの存在により程良く緩衝されている。それを見越しての話の展開であることは、言うまでもない。
そして何より、惨劇と呼ぶに相応しい事件が次々と起きながら、真の悪人が登場しない、いや登場させないところに、作者の懐の深さ、温かさが感じられ、爽やかな読後感が残る。極上のエンタテインメントだ。


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