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1997年12月25日 第1刷発行 |
昔ホテルだったという空家に、強烈な個性を持つ三匹の猫が住んでいた。そこに新入り猫『わたし』がやってくる。『わたし』は、童話作家と共に暮らしていたが、ある日突然、その主人が消えてしまったという。童話作家でありながら、実際に童話を書く事がなかった主人…ここに舞い込んだいきさつを話す『わたし』に、先住者は、今、自分たちは作家の物語の中にいるのだという。 現実が空想の世界に入り込んでしまうのか、空想が現実にとって代わるのか、何とも不思議な読後感を残す作品だ。右ページには、文に呼応する不思議なモチーフの絵が黒をバックに浮かんでいて、ちょっと不安になるような世界を醸し出している。絵だけ眺めていると、まるで美術館に行ったよう。馴染みのない世界に、胸がドキドキする。 謎めいた作品だが、無理に理解せずとも、この妙な感覚を楽しめばいい。この作品のことを心の隅に留めておけば、いずれ、この謎のヴェールの向こう側が見える瞬間があるような気がする。 |