拡大画像
★★★★

トラや

2007年11月30日 第1刷発行
著者:南木佳士
発行所:株式会社文藝春秋
ISBN:978-4-16-326510-0
C0093

「破水」で第53回文學界新人賞を、「ダイヤモンドダスト」で第100回芥川賞を受賞した、内科医であり作家である南木佳士氏の書き下ろし作品。
南木氏は芥川賞受賞後、内科医として人の命を背負う日々の中で、うつ病を病む。生き続けるだけの体と心の力を日ごとに失い、自ら命を断とうとした時、足下に頭を擦り付ける猫がいた。トラだった。「ご飯ちょうだい」……。もとより激情に駆られての自殺ではない。自然消滅しそうな自分に少し手を貸すだけのことだ。猫に餌をやってからでも遅くはない。……餌を用意し、トラが夢中に食べる様を眺めたわずかの時間の間が南木氏を救う。トラは、もともと野良猫が生んだ子猫だった。家族として迎え、命を救った猫に、命をつないでもらった南木氏。
ここまで顕著ではなくとも、私たちはどれほど猫たちに救われていることか。

南木氏の故郷に対する屈折した思い、親の介護と死、医療現場での重圧、南木氏を支える家族、これらのプロットがトラを軸に描かれていく。

本書で特筆すべきは、南木氏の文のうまさだろう。表現の妙に唸ること度々だった。
また、うつ病を患う人が増えている昨今、本書はうつ病を素直に理解する良き助言者でもある。




HOME > 猫本 >トラや