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多摩川猫物語

平成25年3月28日 初版発行
著者:小西 修
発行所:株式会社角川書店
ISBN978-4-04-110278-7
C0072

 

写真家、太田威重氏を介し小西氏と初めてお目にかかって10年近くになるだろうか。映画『犬と猫と人間と』等を通じて、小西氏が20年以上の長きに亘って多摩猫の世話を続けていることは広く知られるようになった。写真家である小西氏は、人の身勝手な都合で多摩川に遺棄され、その苛酷な環境の中で必死に生きようとする猫たち、さらに人の醜悪なむごさにより無念の最期を遂げる猫たちをファインダーに収め続けてこられた。
写真に映し出された猫たちの姿、瞳は、見る者の心を鷲掴みにする。
小西氏はこれまでにも、どんなに小さな機会も逃さず個展を開いては、多摩川の猫たちの代弁者である写真を人の目に、人の胸に届けてきた。一人でも多くの方に、猫に無関心な方にも、嫌いな方にも知って欲しい……小西氏にお会いする度に交わし続けてきた言葉だ。本として出版できたらいいですね……と。

自宅のポストに小西氏からの分厚い封筒が届いた。開けてみると、アカが表紙をかざる本書が手紙と共に入っていた。感無量だった。しかも角川書店から出版されたなんて!

多摩川の猫たちには、それぞれに壮絶な物語がある。短く語られる物語を通して彼らの生涯をなぞり、共有し、決して忘れないこと……それが彼らに苛酷な生を強いた者と同じ人間としての最低限のつとめ……これまで、そう思ってきた。だが、本書を読んで、彼らの物語が伝えるものは、『人間』、『私』そのものであることを知らされた。彼らが生きたことを忘れない、という気持ちさえが浅薄な思い違いであることを痛感し、恥じ入っている。
彼らの雄々しさに頭を垂れた自分も、彼らの無念に拳を握りしめた自分も、彼らの健気さに涙した自分も、彼らと溶け合って境目がなくなったような気がする。おそらく、彼らの物語が真実の物語だからだろう。



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