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★★★★

のりたまと煙突

2009年5月10日 第1刷
著者:星野博美
発行所:株式会社文藝春秋
ISBN:978-4-16-775375-7
C0195

写真家であり、著作家でもある星野博美さんのエッセイ50編を収めた一冊。

テレビのコマーシャルを何げなく見聞きしていて、ふと、このディレクターは同世代かな、と思うことはないだろうか。映像のタッチと使われている音楽がそう思わせる要因なのだろうが、このエッセイ集を読み始めてすぐに、まったく同じ感覚を覚えた。著者のプロフィールを見ると、私より一回りちょっと年下だ。あれえ、そうお?と腑に落ちなかったのだが、まるで追体験しているような気分のまま読み進めて、合点がいった。著者の実家は私と同じ社員を抱える自営業(著者は工場、私は卸問屋)、そして同じ大学の出身だった。要は同じような環境に育ち、大学4年間同じ空気を吸って、ほぼ同じ行動半径で過したのだ。この二つの共通項は、13歳の年の差を超越してしまうらしい。同じような負い目と自負心を抱えていると、日常の何気ない光景に、同じような居心地の悪さを覚えたり、同じように感じ入ったりするらしい。加えて同じように家のない猫を放っておけない、とくれば全編通して腑に落ち通しだ。
けれども、残念なことに私には同じような文は書けない。私は年甲斐もなく、無用の気取りや「いい子ぶりっこ」が抜けずにいる。だから著者と同じように感じても、素直に真っすぐに表現できないだろう。
本書が心地よく読み進められる一番の要素は、星野博美さんのスッピンの顔が見えるからだと思う。
私は、実家の住居と仕事場が一緒だった15年を下町で過し、その町も家業も好きになれず、記憶の外に追いやってきたが、その行き場を失った15年をぼちぼち引き戻してみたいと思うようになった。


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