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猫怪々 2011年6月30日 初版発行 |
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愛猫家が村松友?氏の名を聞けば、すぐに『アブサン』を思い浮かべることだろう。氏は、21年の歳月を共に生き、最期を看取った愛猫アブサンをテーマに、『アブサン物語』『帰ってきたアブサン』『アブサンの置土産』の三部作を書き上げている。このように書くと、この三部作は当然、読み終えているように聞こえるだろうが、『アブサン物語』はおそらく積ん読の山の中に埋もれているのだと思う。気になる本があれば、すぐに買い求めるものの、買ったそばから読む本と、なぜか積ん読になるものとがある。不思議な縁のなせる業だろうか。そんな中、書店で目に飛び込んだ本書は、積ん読の山に埋もれずに、毎朝の短い読書タイムを豊かにしてくれた。 アブサン亡き後、どうしてもアブサンの面影を重ねてしまうであろうことを避けるように、再び猫を家猫として迎え入れることのない村松家だが、その庭には個性豊かな猫たちが食客としてやって来る。近所の飼い猫であったり、外猫と呼ばれる猫であったり、より野性味の強い野良であったり……。彼らは、村松家の庭という縄張りを、それぞれの気質や力量に照らして、旨く棲み分けていく。その描写が何とも味わい深い。外猫たちと縁を繋ぐ者ならば、うんうん、そうそう、と頷くこと頻りだが、我々が日頃目にする光景も、村松氏の筆にかかれば、これほど豊かになるものか、と感嘆するばかりだ。登場する猫たちに、歌舞伎や落語、時代劇、オペラなどの役柄を透かし見るのだが、お陰で猫たちの個性は、一層生き生きとした輝きを放し、読者も村松氏のイマジネーションの広がりに遊ぶことができる。 ふと、思う。私の背骨はどこにあるのか……と。 |