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★★★★

猫は密室でジャンプする
猫探偵正太郎の冒険1

2004年12月20日 初版1刷発行
著者:柴田よしき
発行所:株式会社光文社
ISBN4-334-73797-8
C0193

6編をおさめた短編集。短編といっても80ページを越えるものもあり、読み応えはある。6編の内、『俺』という一人称、すなわち正太郎視線で綴られたものが3編、主人公『私』が一人称になった人間目線ものが2編、三人称で書かれたものが1編。

正太郎目線の長編を読み終えた直後に本書の表紙をめくっただけに、いきなり「私は」で始まる最初の一編には、少なからず戸惑った。当然「俺は」で始まるものと、無意識に思い込んでいたからだろう。人間目線ものにも、もちろん正太郎は登場するのだが、その正太郎は、その時の人間の気持ちを投影した動物「猫」となる。
正太郎目線と人間目線、その描き分けは見事で、ともすると単調になりがちな短編集に、効果的なスパイスとなっている。だが、正直、私にとっては、正太郎目線の作品がお寿司で、それ以外はガリ。事件を起こすのは、いずれも人間で、誰しもが胸に抱える邪鬼のなせる技なのだが、正太郎という懐の深い存在の眼を通して描かれると、まろやかな味わいとなって、素直に飲み込むことができる。一方、人間目線の作品は、人間の内面がストレートに伝わりすぎて、しんどい。正太郎への思い入れは、おそらく、正太郎のものの捉え方への憧れなのかもしれない。

正太郎と自分とを隔てるものは何なのか、そんなことを考えながら、次ぎの一冊を手に取ろうと思う。


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