長短織り交ぜ7編を収録した3作目の短編集。他の短編集同様、正太郎目線で綴られたものと、それ以外の視点で書かれたものが交互に収められているのだが、本書の特徴は、トマシーナを一人称にした作品が2編入っていることだ。
トマシーナとは、正太郎の初恋の相手であり、遠く離れてもなお密やかに恋心を抱きつづけるライラックポイントのおしゃまな猫である。
トマシーナは、正太郎のように論理的に推論を重ねていくわけではないが、鋭い観察眼と鋭敏な感覚で、正太郎とは一味違った謎解きをしていく。
本書には、毒キノコや毒草など、自然に触れる場面設定も多く、そうした研究を愛する登場人物の、俗世離れした爽やかさも手伝って、胸に涼風が吹くような心地よさを感じる。
正太郎のミステリーもこれで6冊を読み終え、正太郎や桜川ひとみは、もはや家族同然。サスケやトマシーナ、浅間寺の親父さんや、糸山、山県も、心おけない旧知の仲といった感覚になる。桜川ひとみに至っては、二の腕の触り心地まで知っている、ような錯角に陥るほどだ。正太郎シリーズの愛読者は、みな似たような気持ちを抱いていることだろう。あまねく読者にここまで密度の濃い親近感を持たせることができるのは、作者、柴田よしきの力に他ならないが、その力は、底なしの包容力から湧き出ているように思う。私たちは、正太郎一家の家族となりつつ、柴田よしきという人に包まれているのではないだろうか。
正太郎シリーズは、すべて読み終えてしまった。次ぎの作品の登場を一日千秋の思いで待ちこがれてはいるが、その間に、柴田よしきの他のシリーズを読んでみようかと思う。違う柴田よしきに出会うのか、あるいは、良く知る柴田よしきに再会するのか、いずれにしても楽しみだ。
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