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ねこタクシー(上)

平成21年10月29日 初版発行
平成22年7月27日 7刷発行
著者:永森裕二
発行所:株式会社竹書房
ISBN978-4-8124-3959-3
C0174


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ねこタクシー(下)

平成21年10月29日 初版発行
平成22年7月27日 7刷発行
著者:永森裕二
発行所:株式会社竹書房
ISBN978-4-8124-3960-9
C0174

このところ、本はもっぱら Amazon で購入しているが、本屋に出掛けると思い掛けない出会いがあるものだ。
ある休日のこと、夫とのランチの後、珈琲屋に立ち寄ることにしたのだが、手持ちの本がない。最寄の小さな書店に飛び込み、タイトルの『ねこ』につられて購入したのが本書だった。『ねこタクシー』という題名は、さほど魅力的ではなく、フィクションなのかノンフィクションなのか、はたまた写真集なのかさえ確かめず、活字があればいい、と期待せずに買い求めた。ところが、これが嬉しい予想外となった。
『ねこタクシー』がTVドラマになったことも、映画化されたことも、恥ずかしながら知らなかった。本が先か、映画が先かは、常に意見の分かれるところだが、本が先派の私にとって、本書に先に出会えたことは幸せだった。
映画・ドラマの原案、脚本を手掛けてきた著者、永森氏の著作については、無理のある設定や取材の不足による上滑りを指摘する向きもあるようだが、こと、人にとって猫の何たるか、に関しては、しっかりとした芯が通っている。私にはそれで十分だ。

主人公、間瀬垣勤は、元教師、現タクシードライバーの48歳。人との交わりが不得手で、自分の中だけで空気を回しているような閉塞した生きように、家族の中でも影が薄い。間瀬垣は、一日一日を消化すれば良いと思っていた。ある日、間瀬垣は大きな野良猫を目にする。その猫の存在が妙に気に掛かる。ひょんな巡り合わせで、その猫(御子神さん)を自分のタクシーに乗せることになる。
  デブ猫の御子神さんは、俺がもっていない全てを持っていた。
本書は、主人公の一人称で綴られる。
御子神さんの存在は、間瀬垣の心に風穴を開けていく。自分から外に向かって吹き始めた風、また外から内に吹き込む風が、間瀬垣を取り囲む人々との関わりを変えていく。

人が知らず知らずに持つこだわりは、なかなか捨て去れるものではない。
こだわりが自分の自分たる所以のようにさえ思え、尚更にこだわっていく。そのこだわりをあっさりと捨てさせる存在が猫なのではないだろうか。
こだわりを捨てた時、その小ささに気づくと同時に、より大きな世界が開ける。私にとっての猫の存在を、もう一度見つめ直してみようと思う。


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