★★★★ |
1994年10月 1刷 |
猫の事務所に勤める書記は、人の尊敬を集めるエリート。その中に、かま猫が一匹いた。かま猫とは、土用生まれのために寒がりで、竈の中に入って眠る猫のこと。体が煤に汚れて黒く、皆の嫌われ者だ。エリート集団に身を置くかま猫もその例外ではない。書記仲間のちくちくとした日頃のいじめの中で、かま猫をかばっていた事務長も、根も葉もない中傷を信じてしまい、かま猫の仕事を取り上げてしまう。 70年以上も前に書かれたストーリーが、実にみずみずしくダイレクトに私たちに問いかけてくる。朝露に濡れた木々が発する静謐な香りまでが運ばれてくるような黒井氏の絵も、そのみずみずしさを演出している。「いじめ」「差別」というテーマが普遍的なものであるなら、それは悲しいことだ。このストーリーの最後に登場する獅子の一声は重い。 |