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2003年7月17日 第1刷発行 |
「画家、猫」というキーワードで、一番先に頭に浮かぶのが、藤田嗣治氏だろう。 藤田氏を世界の藤田にしたあの『素晴らしき乳白色』の裸婦の足元にも、有名な自画像の肩にも、あの広い額を持つ少女たちの腕の中にも猫がいる。それは、藤田氏のトレードマークのようでもあり、自身の言葉通り「サイン代わり」でもある。こうした猫の扱い方とは別に、氏は『猫十態』『猫の本』等、猫そのものも描いている。本書は、『藤田嗣治画集 素晴らしき乳白色』未収録の作品を中心に、藤田氏の描いた猫約90点を集め、氏のエッセイを添えたものだ。 猫の絵ばかりが時系列に並べられていると、1920年代、30年代、40年代、50年代と年代ごとの変化を見てとることができる。だが、一貫しているのは、人間と生き、人間と共に描かれる猫が、頑なまでに自分の世界を失っていないことだ。それは、氏が社会の中にあって、なお、自身の絵を生み出す土壌となる自己の世界を、社会に同化しない独自の世界を作り、守ったことの投影のように思われる。藤田氏と猫の間に流れる愛情や信頼は、決して相手に没することのない、みじんの甘えもないところに湧き出る、相手の世界の尊重なのではないだろうか。 藤田氏の猫たちを見ながら、今の自分と猫とのあり様を問い直さずにはいられなくなった。 |