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猫物語 1995年11月29日 第1刷発行 |
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本書は、著者の生前に出版された最後の本である。生涯をヨークシャーで獣医として過ごした著者は、あらゆる命あるものに愛情を注いできたが、中でも猫は特別な存在だった。そもそも獣医師になる道を選んだのも、猫に対する愛情ゆえのことだった。著者は、獣医師として日々動物たちの診療に当たるかたわら、本を書き、多くのベストセラーを生み出したが、生前、最後に手にした自分の著書がこの『猫物語』だったことは、偶然とは思われない。著者は作家としても大成功をおさめながら、ヨークシャーの牧歌的な自然の中での清貧な暮らしぶりを、生涯変えることがなかった。そんな著者の生きようは、本書に収められた10の短編にそのまま映し出されている。ヨークシャーという風土、そこに暮らす純朴な人々、そして彼らの生活の友である猫たちが、著者のあたたかい目で掬いとられ、素直な表現で読む者の心の中に生き生きとした映像を結ぶ。その光景は、猫を愛するが故に、日々の生き辛さに喘ぐ人々の、羨望のため息を誘うことだろう。生涯大切にしたい一冊だ。 |