この本は、何とも欲張りな一冊だ。
人生の流れにそって編者が選んだ短歌、和歌、俳句、15篇を左ページに、チェリストであり墨絵画家でもある雨田光弘氏の絵を右ページに配したもので、見開き一句の構成になっている。詩歌には現代訳ばかりでなく、英訳、作者の略歴も紹介され、大きな余白とはうらはらに、内容は濃い。右ページ一杯に収められた雨田氏の墨絵は、氏の特別のお気に入り作品の中から選りすぐられたものだ。
詩歌と愛らしい雨田catsのハーモニーが不協和音にならないのは、何とも不思議だ。
登場する猫たちは、学校の『古典』の授業のお蔭で、敬遠しがちないにしえの歌の世界へ、ごく自然に誘ってくれる。猫たちがいなかったら再び接することはなかったであろう一句一句が、この上なく魅力的に感じられ、現代訳を見ずとも、作者の心情が伝わってくるのは、歳のせいか、はたまた学校を離れ、何の束縛もなしに向き合ったからか……。何度も繰り返し口ずさみ、暗唱してしまった句も少なくない。六歌仙が突然に身近になったような気さえする。
雨田cats はいずれものびやかで、時折書き添えられている楽曲のタイトルを見ると、ぜひとも聞いてみたくなる。
名作の音読や、鉛筆でなぞる『奥の細道』が脚光をあびているが、これを機に万葉集、徒然草、拾遺和歌集などにも触れてみようか。
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