いやあ、こんな面白い本を、どうして今まで知らずにいたのだろう。
一ページ目の二、三行だけで、本に絡めとられるほど、のめり込んでしまう。正直、今私の枕元には、読みかけの猫本が6,7冊は積んである。中々先に進まなかったり、他の本に気移りしてしまった結果だ。それだけで本の善し悪しを論ずることはできないが、読みやすさや人の気持ちを掴んで話さない語り口・話の運びは、本の大切な要素だ。本書は、リズミカルで軽快でありながら、決して軽いわけではない。柴田よしきさんは、文が殊の外上手いのだ。そして人物表現に長けている。正太郎という猫の目を通して描くことにより、ともすれば鼻持ちならない印象の人物さえ、笑って受入れられる。だからこそ、読後感が爽やかなのだろう。
この一冊は、表紙画を描いた前田マリさんから頂いたもの。原画を譲っていただいたときのプレゼントだ。ちなみに表紙デザインは前田マリさんのご主人、間宙地氏が担当。本書は、副題にある通り、正太郎シリーズの4冊目にあたる。
正太郎は、同居人のミステリー作家、桜川ひとみと共に、琵琶湖畔から東京へと引っ越すことになった。東京での家探しに始まり、神楽坂に見つけた庭付き一戸建ての借家にまつわるストーリー等、4編の短編が収められている。大家さんの家の猫、ニンニンとフルフルを交えた3匹の猫それぞれの個性、彼らの観察眼の鋭さ、そして優しさが、保険金殺人や通り魔殺人という人間の犯した残虐な愚行を覆ってくれる。
読み終えてすぐに、本屋さんに走り、正太郎シリーズの一作目と二作目を購入した。しばらくは、正太郎から離れられそうもない。
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