「ニャーンズ・コレクション」は、アルベルト・B・ニャーンズ(1872-1951)という一美術愛好家の尋常ならざる熱意と努力によって誕生した、世界でも類を見ない個人コレクションである。蒐集作品のテーマは、ただひとつ、“泰西猫名画”、すなわち“猫の闖入せる”絵画である。
現在、所蔵作品は、氏の盟友、木天蓼幸之助が設立した木天蓼美術館の管理のもと、世界各国の美術館に貸し出されている。ルーブルやプラドで、多くの人々が足を止める名画が、実は「ニャーンズ・コレクション」の所蔵作品であることを知る人は少ない。……
これはカバーのそでに書かれた一節である。
さらに扉をめくり、「ごあいさつ」を読めば、読者はにんまりとして、続く本文が必ずや読む者を満足させてくれるであろうことを確信するだろう。
私の書棚にも、猫が描かれた名画の画集が数冊ある。
その中にあって、本書が群を抜いているのは、その着眼と遊び心だろう。
先に引用した文の中にも『闖入』という言葉が使われているが、確かに「なんでここに猫がいるの?」と首を傾げる名画は少なくない。本書の著者である木天蓼美術館館長、赤瀬川原平氏は『……猫は名画を見つけると、まるでコタツを見つけたように、その名画の中にもぐり込む。画家が主題を描くのに熱中しているのをいいことに、画家の目を盗んで、そうっとその名画の隅に入っていって、こっそり自分の居場所を見つけて、じーっと絵の中に溶け込んでしまう。……』と解説する。なるほど、と深く頷いてしまう。
猫が闖入した名画は、猫をモチーフに描かれた凡庸な絵よりはるかに魅力的だ。
赤瀬川氏は、自らも画家であるが、ニャーンズ・コレクションの一点一点を芸術家としての視点より猫愛好家としての視点を優先して眺め、疑問をもち、独自の解釈を展開している。それが良い。
装丁も素晴らしく、将来ebooksが主流となっても、必ずや生き残るであろう、本でしか味わえないものが目一杯詰まっている。永久保存倍版にしたい。久しぶりの5つ星だ。 |