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						 タイトルに Cat の文字はなく、表紙画に猫の姿のないこの本を買い求めたきっかけが何だったのか、思い出せない。表紙一面に描かれたゴールデン・レトリバー……だが彼は主人公ではない。My Big Dog というタイトルの "My" こそが主役。 
								最初のページの 
						 My name is Merl and I am a cat, a very special cat. 
						という書き出しで、"My" の正体がわかる。 
								特別な猫、Merl は、気ままで最高の生活を送っている。家も Merl のものなら、ソファーも、椅子も、ベッドも、お皿も、おもちゃのネズミも、すべて Merl のもの。Merl の家に住む人も、もちろん Merl のものだ。 
								ところが、ある日、Merl の家に、とんでもないものがやって来た。こともあろうに、仔犬が来たのだ。何と云うこと!! 
								Merl につきまとい、離れようとしない仔犬を、Merl はあらゆる手で追い払おうとするのだが、上手くいかない。さらに悪いことに、この仔犬、どんどん、どんどん大きくなるのだ。ついに Merl は家を飛び出すことに…… 
								 
								ストーリーが Merl の一人称で進められるだけあって、その心中がダイレクトに表現され、読む者のくすくす笑いを誘う。 
								おもちゃのネズミをくわえて大きく描かれている Merl の迷惑気な表情は全編を通してほとんど変わらず、それだけに Merl の心を占めるその時々の思いが読み手側で増幅されるような気がする。 
								犬と猫の気質の違いが生み出すリアリティのあるストーリーが、コメディ・タッチで展開され、痛快だ。 
								イラストのタッチの素晴しさは言うまでもないが、テキストのフォントは猫の独白にぴったりだし、登場する人間にはモノクロの写真を使うことにより、読み手の人間を『人間』から引き離し、そっくり猫の心に引き入れてしまっている。 
								見ても読んでも楽しい一冊だ。 
							 
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