過去の栄光の名残である素晴らしい庭をもつ家に生まれ育った青年アランが結婚したのは、新興の商家の娘カミーユ。二人は幼なじみだったが、アランには、妻カミーユが自分の世界への闖入者に思われ、その苛立ちをどうにも拭うことができずにいる。アランが気持ちを重ね合わせることができるのは、愛猫サアだった。カミーユは、次第にサアに対する嫉妬を深めていく。そして……
20世紀フランスの文壇の女王コレットが、60歳の円熟期に書き上げた作品だ。この作品の中には、いくつかの対立軸が存在するが、その中でもっとも強烈なのが、「純粋なものと不純なもの」だろう。一見、アランをめぐる妻カミーユと猫サアの三角関係のように見えるストーリーだが、アランは、《サアがきみのライバルになるはずはないじゃないか……きみにライバルがいるとしたら、不純なものたちのだれかだろうから》と独白している。実は、カミーユもそれをどこかで分かっているのだ。だからこそ、ますますつのる嫉妬……
私たち猫を愛する者には、アランの気持ちが痛いほどわかる。そして、カミーユの究極の嫉妬も。
秋の夜長に相応しい一冊だ。
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