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★★★★

黒猫ひじき

2006年3月15日 第1刷発行
著者:西村玲子
発行所:株式会社ポプラ社
ISBN4-591-09193-7
C0095

イラストレーターであり、エッセイストでもある著者、西村玲子氏が、「ひじき」をはじめとする愛猫たちとの日常を綴ったエッセイ集である。
愛猫に寄せる思いを書き記すと、どうしても、のめり込み過ぎになり、読み手は食傷気味になることが少なくない。特に著者が女性の場合、愛猫との距離が極端に短く、一体化してしまいがちだ。読み手も愛猫家だろうから、その気持がわかり過ぎる分、「わかった、わかった」という気持にさせられる。ところが、本書は、その押し付けがましい重苦しさがない。それは、とても貴重なことで、本書の最大の魅力といってよい。

最初の数話、ドラマ性もメッセージ性も感じられず、淡々と綴られる日常に、あまり興味を持てずにいたのだが、不思議なことに、途中で投げ出す気にもならず、読み進めていった。著者は、愛猫家の例に漏れず、親バカに違いないのだが、程良いハンドルの遊びがあることに段々と気付く。それが、実に心地良い。同じ猫を愛する者同士の共感を感じながら、半歩の距離を保って読むことができる。「ひじき」が失踪した場面など、心中察して余りあるのだが、そんな時でさえ、表現にゆとりあがある。これまで、著者の作品に接したことはないが、西村氏が取り上げるテーマは、おしゃれ、インテリア、手芸,旅、映画など多岐にわたっているようだ。そうした広がりが、エキセントリックになりがちなテーマにも、ふわっとした空気感を与えているのかもしれない。それは、著者が添えた挿画にも表れていて、着慣れた普段着の心地よさを感じさせてくれる。本書の魅力は、他ならぬ、著者の生き方の魅力なのだろう。

装丁もまた、印象深い。日本の古書を思わせるデザインで『黒猫ひじき』というタイトルと呼応する。内容は、和物という感じではないので、一人歩きしている感じがしないでもないが、装丁が印象に残ること自体、稀なことだ。もう一度読む時には、ゆかたでも着ましょうか。


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