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映画はネコである 2011年4月15日 初版第1刷 |
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猫は、私たちの心と時間を豊かにしてくれるが、特筆すべきは、猫が極めて有能な水先案内人であるということだ。愛猫家は、『猫』というキーワードに敏感に反応する。猫の付いたポストカードを一枚買ったら最後、そう遠からぬ時期に身の回りの物はすべて猫モチーフに変わっていることだろう。壁の絵画も、キュリオ・ケースも猫もので埋め尽くされる。書棚の本もそうだ。タイトルや表紙画に猫の登場する本がずらりと並び、さして読書家でもなかったはずが、書棚に入り切らない猫本がうずたかく積まれる。これだけではない。愛猫家は、『猫』と聞けば、興味は尽きず、恐ろしい集中力を発揮して、向学心に燃える。手にした一つの猫の焼き物は、私達を陶芸評論家にまで育てるし、一枚の猫の絵は、私達に美術史を滔々と語る蘊蓄を与える。私達はただ猫を楽しんでいたはずが、知らず知らずにそれぞれの世界の奥深くまで潜入してしまうのだ。これは何も『猫』に限ったことではないかもしれない。大好きな物が一つありさえすれば、それを入り口に未知の世界の扉が次々に開かれるのだろう。ただ、幸いなるかな、猫は猫自身の好奇心の強さのせいか、その守備範囲は恐ろしく広く、「どこでもドア」さながらに、およそ考えつくあらゆる世界に私達をいざなってくれる。 |