ビビ

2007年10月8日 第1刷発行
作:たがわいちろう
絵:中村みつを
発行人:田川一郎

定年後は田舎に戻り、荒れ田を耕してブルーベリーを栽培したい……そんな夢を持ちながら、苗木を植え始めて2年くらい経ったころのことです。近所に出入りしていた一匹のサバトラ猫が、ひとりぼっちになってしまいました。それまで可愛がってくれていた大工さんが、急に亡くなってしまったのです。日に日に痩せ、悲し気なサバトラを放ってはおけず、ご飯をあげるようになりました。サバトラとの距離は、一足飛びには縮まらなかったけれど、日を重ねるごとに心が寄り添うようになっていきました。ブルーベリーの頭文字を取って、BB(ビビ)という名前もつけました。東京のテレビ局で仕事をしていたときの都会暮らしからは考えられないような、さびしい田舎の夜に、ビビは温もりと慰めを与えてくれました。そんなある日、テレビの仕事で3ヶ月間家を離れなければならなくなりました。どうしたものか思案した結果、東京の家に連れていくことにしました。出発の日、嫌がるビビを無理矢理キャリーに入れて、タクシーに乗り込んだのですが……

本書は、田川一郎氏の実体験とビビに寄せる気持ちから生まれた。出版不況の中、一定の販売数が確実に見込める作品しか本にできない出版社が一番に敬遠するのが、悲しい結末の物語。田川氏が持ち込んだ『ビビ』の原稿も、出版社に取り上げられることはなかった。それなら、自費で思い通りの本を作ろう!そして誕生したのが本書『ビビ』である。
著者のたがわ氏は、悲しい悲しい物語、と評するが、私にはそうは思えない。むしろ、ビビの逞しさが、日和見の自分には眩しく見える。
読者層をどこに据えるのか、そのターゲットに相応しい語りであるか、真に伝えたいメッセージは何なのか、等々、通常の出版では、かなりの加筆訂正、推敲を強いられるものだ。必要なこととは云え、書き直していくうちに、執筆当初のほとばしるような感情の流れが淀みはじめ、ストーリー・ラインもテーマ自体さえも、思い掛けない方向に向いてしまいかねない。作者が思いの丈を、思い通りに表現したいのなら、自費出版にかぎる。それこそが自費出版の醍醐味なのだから。
『ビビ』を読んでいると、自費出版で本を作り上げたたがわ氏の胸の内がダイレクトに伝わってくる。それで十分ではないか。

ユニセフ親善大使としての黒柳徹子さんに同行しての番組制作をはじめ、テレビという世界で長年仕事をされてきた田川氏と、山の中のブルーベリー畑でビビとの時間を大事に育んだたがわ氏。田川氏のキャリアの上に実を結んだブルーベリーとビビの世界は、中村みつを氏が描く本書のイラストのように、優しく穏やかで愛しいものなのだろう。それは、他ならぬたがわ氏の世界なのだ。

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http://www.inv.co.jp/~tagawa/bibi/bibi.html


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