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1990年10月10日 初版第1刷発行 |
恭は、奥さんのお誕生日に、年の数の冬薔薇の花束の中に小さなアビシニアンをそっと入れてプレゼントした。奥さんの手に渡ったとき、薔薇の花が一輪足らない。子猫が食べてしまったらしい。子猫は、薔薇の花に囲まれていた上に一輪をお腹に納め、すっかり薔薇の香りに染まっていた。子猫は『薔薇猫ちゃん』という名前をもらい、奥さんの溢れる程の愛情を注がれて成長していく。 と書くと、猫の成長記録のように思われるかもしれないが、12話からなる本書は、翻訳者から作家へと転身する奥さん、イラスト画家へと脱サラする恭…この若い夫婦の脱皮を描いた物語である。至るところに草花の描写が織り込まれ、かぐわしい香りが漂う中、薔薇猫ちゃんは生きた情景となって描き出されている。 季節の移り変わりを草花で知る…都会でコンクリートに囲まれ、無機質な時を消費する者が忘れかけているものを、香りと温もりで思い出させてくれる。 |