このブローチと出会ったのは、老舗ホテルのアーケードをウィンドウ・ショッピングしていたときのこと。高価な鼈甲細工の中で、まるで私を呼ぶように鮮烈なオーラを放っていた。引き寄せられるように店内に入り、ウィンドウから出していただいた。手にのせたブローチは、ガラスを挟んで眺めた時より数段魅力的だった。吸い付くような滑らかさ、豊かな盛り上がりの中から、猫が私を眺めていた。実に微妙で絶妙な距離を保ちながら、静かに私を見る目に、瞬時に対等の関係が生まれたような気がした。否応無しに目に入る値札には0が並び、とても衝動買いできるような値ではなかったし、この素材が何なのかも知らず、高いのか安いのか、判断することもできなかったが、それはどうでも良いことのように思われた。
縦4.7cm、厚さ2cmのこのブローチの素材は、琥珀と鼈甲だそうだが、その情報は、私の決断をさらに早めたに過ぎない。
衝動買いすると、決まって自分への言い訳を考えることになるのだが、このブローチは、私に喜びだけを与えてくれている。 |